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「あっ先輩おはようございます」

「……おはよう」

会いたくない時に限って会ってしまう。



「すみません、ぼく急ぐんで。また」

「あ、うん…」


走っていっちゃった。


あれだけ重なってた偶然も、今は全然起きない。


所詮、“偶然”だよね。


弱ってた心も、もう大丈夫。
だから簡単に真に受けたりもしない。



よしっ!!
もう大丈夫だっ!!(←なにが?)




・・・・・・・

サークルやバイトで会えなくなると、こんな会えないものなんだろうか。


今日は久々に狩谷くんと一緒にバイト。
なんか…朝から浮き足立ってしまう。

彼女さんいる人に、なに考えてんだかわたしは。。。



ドカッ!!


移動のため歩いていると、校舎裏から大きな音がした。
近づいていくと、数人?の男の人の声が聞こえる。



「テメェ調子乗ってんじゃねぇよ」

「ユキは俺の女なんだよ!わかって手出したのか!?」


4人かな?
そのうちの男の1人が、壁にもたれて倒れている男の人を蹴った。


壁にもたれて倒れてるのは…
えっ!!狩谷くん!?

「は?勝手に言い寄ってきたのはユキって奴だけど?」


蹴った人が狩谷くんの胸ぐらを掴んだ。


「テメェが誘ったんだろ?」

「なんもしてねぇよ…ぼくの方が良い男だったってだけだろ?」


「調子乗んなよ!!」



バサバサバサッ!!!!


「はぁはぁ…」


「詩…先輩??」


どうしたらいいかわからず、持ってた教科書とかを思いっきり男たちに投げつけた。



「なにすんだテメェ!」


信じられない。
複数で人にこんなことするなんて。

わたしは狩谷くんの前に立った。


「複数でひとりの子にこんなこと…最低だよ!!今すぐどっか行って!!」


怖くて…足が震える。
だけど狩谷くんを守らなきゃ。


「ふーん。じゃ、あんたが俺の遊び相手になってよ」

そう言ってわたしは腕を掴まれた。


「きゃっ!!」

「先輩!!」

「なにやってんだ!?」


間一髪のところで先生が来てくれた。

チッと舌打ちをして去っていく男たち。



「大丈夫か!?」

「わたしは大丈夫です!でも狩谷くんが…!!」


顔を見ると頬が赤く腫れてて、口からは血が出てる。


「すぐ保健室行こう!!」


先生のおかげで助かり、保健室で手当をしてもらった。



「少し休んでいった方がいいわ」

狩谷くんはベッドで休むことになった。



「じゃあ…わたし行くね」


パシッ


「先輩…しばらくここにいて…?」


もう真に受けないって決めたのに……


「うん…」

少し寂しそうな表情ひとつに心が持っていかれて
そばにいてしまうんだ。


しばらくすると狩谷くんは眠ってしまった。
そんな狩谷くんを見ながら、わたしもいつのまにかうつ伏せて眠ってしまった。


梅雨の時期には珍しく、少しカラッとした良いお天気の日で開いた窓からは心地良い風が入ってきていた。




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うわー。
こんな間近で先輩の寝顔!!
可愛すぎるから!!


ポケットからスマホを急いで取り出し、うつ伏せて眠っている先輩の腕の隙間から少し見える寝顔を連写。

またフォルダに写真が増えた。



サラッ…
先輩の髪に触れる。


詩先輩、やっぱり変わってないね。
ぼくが大好きになった先輩のままだった。


さっきのはちょっと計算外だったけど、まさか先輩が助けてくれるとは。

小学6年生の頃の記憶が蘇る。

あの頃もこうして身を挺して助けてくれたよね。



あーー!
触りたい!
抱きしめたい!!


ぼくがどれだけ我慢してるかわかってる?


あんなしょーもない女とつるんでたのも、先輩がぼくを気にするように持っていくため。
あんな女に名前で呼ばれるなんて…吐き気がするのに、ぼく我慢してるんだよ。


食堂でも、ぼくたちをずっと見てたね?
あの位置なら、ぼくのこと見えると思ったけど予想通りだった。
耐えられなくなって帰っちゃったの?
あのなんとも言えない悲しそうな表情……すごく可愛かった。
あんな表情(かお)、ぼくのためにしてくれるんだね。


朝も最近一緒に行けなくて寂しかった?
ぼくは寂しくておかしくなりそうだったよ。
でもね、先輩とぼくの世界のために今は耐えてるんだ。

偉いでしょ?


これもぜーんぶ先輩のため。
もっともっと…

ぼくしか考えられないようにしてあげるから。