あれから数週間。
大学内であの女の子と狩谷くんが一緒にいるのを見る機会が増えていった。
その度に増えていくモヤモヤ。

バイトで一緒の時や帰り道、ふたりっきりなのに
あの言葉の意味やあの女の子のことが聞けない。



・・・・ハッ!!
聞けないってなに!?
わたし、なにが聞きたいの!?


「先輩?どうしたんですか?」

「え!なにが!?」

わたし、なんか不自然だった!?


「いや…家着いたけどぼーっとしてるんで」

横を見るとわたしの家の前だった。


「ほんとだ!ごめんね気づかなくて!!」

「先輩…なにかありました?最近なんか変…」


ドキーーッ
見透かされたかのように、なんか勝手にドキッとしてしまう。


「え?普通だけど!!」

「そうですか。じゃ、また」


あっ、行っちゃう。。。





「あ……あの!!」

狩谷くんが足を止めてこっちを向いた。



・・・・・・

やってしまった。。。



「どうしました?」


呼び止めたのはいいけど…なに言ったら……


必死で考えていると、狩谷くんがわたしの目の前まで来ていた。

そして、わたしに視線を合わせるように少し屈んでわたしの顔を見る。


「先輩なーんか変すよ」

こんな時まで可愛い顔!!
グサッと刺さってきた。



「えっと…そう!!そうだ!!ウチでお茶でもどうかなと思ったんだ」

固まってジッとわたしを見る狩谷くん。


いきなり家誘って引かれた!!??

そりゃ引くよね!!
彼女さんいるのに誘うとか引くよね!!??

てか、彼女さんいるなら一緒に帰っちゃわる……
「ありがとうございます。でも今日はやめときますね」


えっ…

「もう夜も遅いし親御さんたちにもご迷惑だと思うんで」

すごく爽やかな笑顔で丁寧に断る狩谷くん。


ズキッ…
「だ、だよね…。ごめんね、困らせて……」

気を…遣わせてしまった。
なにやってんだわたし。


「今度もうちょっと早い時間にお邪魔させてください。美味しいお茶楽しみにしてます♪」

そう言って笑ってくれた狩谷くん。
また、胸がドキッと鼓動を鳴らした。


「うん。とびっきり美味しいお茶用意しておくね」

「あはは。ありがとうございます」


今度こそ狩谷くんは帰っていった。
マンションに入って見えなくなるまで見送った。



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6月末で梅雨真っ只中。


「あーつーいー」

暑さで項垂れている亜紀と食堂で前期試験に向けて勉強中。
放課後の夕方だけど、ジメジメして暑い。

「ちょっと休憩で寝る〜」

「もう亜紀ったら…」

宣言通り、しばらくして亜紀は寝てしまった。


ひとりで勉強を続ける。



「想汰〜勉強なんかせずにカラオケ行こうよ〜」

「ダメだよ。ユキ、単位取れなかったら知らねーぞ?」


ドクンッ

まさかの…狩谷くんとあの女の子がふたりで食堂にやってきた。


わたしは顔を伏せて気づいてないフリをした。


狩谷くんたちが座った席は、女の子は後頭部しか見えなくて狩谷くんが横顔で見える位置だった。



やだな…
わたし、チラチラあのふたりを見てしまう。


優しく笑って話してる狩谷くんの表情を見たら、なんかモヤモヤする。




「想汰〜!!いたー!!」

少しして、何人かの男女がやってきた。


「なに?」

「夏の試合、サポートで出てよ〜!おまえバスケすげー上手いから!!」

「無理だって。ぼく専門でやってるわけじゃないし」

「中高でバスケ部だったんだろ!?頼むよ!!あんなシュート、なかなか出来ねぇし」

「うーん…いつ?」


亜紀の言っていた意味がよくわかった。
狩谷くんの周りには人が集まってくるんだ。
スポーツも得意で人気って言ってたもんな。


バスケ…得意なんだ。
しかも中高バスケ部で。

なんで今はしないんだろう。


そういえば狩谷くんの好きな食べ物とかってなんなんだろう。



…あれ?
わたし、なにも知らない。


ま、まぁ当たり前か。
ただの同じ学部でバイト先一緒のイチ先輩だもんね。


バイトも狩谷くんは覚えがすごく早くて、研修期間も終わり一緒に入れる日が前より減った。


なんだろ、このモヤモヤ。
わたし、変だよ。


「想汰は夏休み、ユキとデートいっぱいするの!だから試合とかダメ〜!」


ドクンッ!!

確定的な言葉が聞こえた。
あの女の子が発した言葉。


デート…
やっぱり付き合ってたんだ。


そりゃそうだよね。


わたしは荷物をまとめた。


「亜紀起きて」

そして亜紀を起こす。


「ふぇっ…どしたの??」

「帰るよ」


その場にはいられなかった。
きっと狩谷くんはわたしたちに気づいていない。
その内に帰らなきゃ。


彼女さんがいる人を家に誘うなんて…
なんてバカな先輩だと思われたに違いない。


なんて
情けない先輩なんだ。