次の日は先生が家に来る日だった。俺は、今月の中間考査へ向け、物理の教科書を開いていた。
今日も昼間は少し暑く、夕方の今になって黒い雲が広がりはじめていた。先生は傘を持っているだろうか。
うちの先生は、
キャバ嬢としての一面も持っていた。しかも高級店の人気嬢らしい。綺麗なドレスを着て髪を巻き、シャンパンのグラスを手にニッコリ微笑んでいた。
- 自分の身は自分で守らなきゃ。
- 趣味。でも身を助けるよ。
先生は最高学府の学生で、俺の家庭教師で、読書家で、キャバ嬢。自分の知らない先生がまだまだいることを知ってショックを受けた。が、
考えてみれば俺は先生のことを何も知らないのだ。誕生日も、血液型も、どこに住んでいるのかさえも。
(それなのに「好き」なんて笑う)
相手にされていないのに。
(それなのに「好き」ってしんどい)
気づいてしまったらもう止まらない。止まれない。胸がぎしぎし痛んで涙がじんわりにじむ。ひとりでなんでもできる先生に俺がしてあげられることってなに。俺は先生より年下で、しかもまだ高校生。進路すら決まってない。中途半端なやつなのに -
雨がしとしと降ってきた。先生は俺のシャツをクリーニングに出したと言った。
「わざわざ済みません」
「お礼だよ」
わずかな言葉を交わし、いつものように授業が始まった。中間考査の試験問題を先生が予測してくれた。まずは英語。
(発音綺麗だな)
先生が発音した後、アプリでも発音をチェックする。先生の発音が綺麗なアメリカ英語だとわかる。声も綺麗だし。アルトでクリアで、でも控えめで。
(お客さん相手ではたくさん話すのかな)
先生は読書家で博識、そして多言語話者。それに美人だから接客業は天職だろう。俺とは違う。俺は、バイト先の喫茶店で友人みたいに気さくにお客さんと話ができない。話を広げられないのだ。緊張してしまって。
いろんなことを考えすぎてしまって、まだ進路も決められない。親の希望、友人の夢、クラスの空気に流されまくりだ。
先生は、いつもブレない。なぜ、そんなにいつも強くいられるのだろう。
「自分のこと強いって思ってたら、自然と強くなるよ」
先生は、あっさりとそう言った。
「強いばかりが正解ではないけどね」
「え」
先生が、
ふ、と、俺を見た。
「きみにはきみのブレない軸がある。
それって、きみの長所だと私は思う」
今日も昼間は少し暑く、夕方の今になって黒い雲が広がりはじめていた。先生は傘を持っているだろうか。
うちの先生は、
キャバ嬢としての一面も持っていた。しかも高級店の人気嬢らしい。綺麗なドレスを着て髪を巻き、シャンパンのグラスを手にニッコリ微笑んでいた。
- 自分の身は自分で守らなきゃ。
- 趣味。でも身を助けるよ。
先生は最高学府の学生で、俺の家庭教師で、読書家で、キャバ嬢。自分の知らない先生がまだまだいることを知ってショックを受けた。が、
考えてみれば俺は先生のことを何も知らないのだ。誕生日も、血液型も、どこに住んでいるのかさえも。
(それなのに「好き」なんて笑う)
相手にされていないのに。
(それなのに「好き」ってしんどい)
気づいてしまったらもう止まらない。止まれない。胸がぎしぎし痛んで涙がじんわりにじむ。ひとりでなんでもできる先生に俺がしてあげられることってなに。俺は先生より年下で、しかもまだ高校生。進路すら決まってない。中途半端なやつなのに -
雨がしとしと降ってきた。先生は俺のシャツをクリーニングに出したと言った。
「わざわざ済みません」
「お礼だよ」
わずかな言葉を交わし、いつものように授業が始まった。中間考査の試験問題を先生が予測してくれた。まずは英語。
(発音綺麗だな)
先生が発音した後、アプリでも発音をチェックする。先生の発音が綺麗なアメリカ英語だとわかる。声も綺麗だし。アルトでクリアで、でも控えめで。
(お客さん相手ではたくさん話すのかな)
先生は読書家で博識、そして多言語話者。それに美人だから接客業は天職だろう。俺とは違う。俺は、バイト先の喫茶店で友人みたいに気さくにお客さんと話ができない。話を広げられないのだ。緊張してしまって。
いろんなことを考えすぎてしまって、まだ進路も決められない。親の希望、友人の夢、クラスの空気に流されまくりだ。
先生は、いつもブレない。なぜ、そんなにいつも強くいられるのだろう。
「自分のこと強いって思ってたら、自然と強くなるよ」
先生は、あっさりとそう言った。
「強いばかりが正解ではないけどね」
「え」
先生が、
ふ、と、俺を見た。
「きみにはきみのブレない軸がある。
それって、きみの長所だと私は思う」



