センセイは透明感ハンパない

約1時間をかけて、本を2冊選び、借りた。1冊はミステリー、1冊はラブストーリーだ。先生のおすすめ、楽しみ。
「何かおごりますよ。今日のお礼に」
庭に出て、キッチンカーを見ながら俺がそう言ったら、先生がほんのり笑う。
「私もここに用事あったから」
(優しい!!)
「飲み物買おう。きみはどうする?」
「あ、おごりま、」
「わかった。ゼロコーラね。私は紅茶にしよう」
いつも家で飲んでいるものを把握されていた。しかも先生の手にはスマホが。
「あ、俺、おご、」
「あれ、おまえ」
「え?」

ピンク色のキッチンカーの中に友人がいた。クラスメイトで同じ喫茶店で働いている。
「おまえ、キッチンカーでもバイトしてんだ」
「まぁな。おまえはデート?」
俺はとっさに先生を見た。先生は涼しい顔をしてあさっての方向を見ている。
「家庭教師の先生だよ」
「あぁ。
すっげぇ美人だな」

ゼロコーラのLサイズに、あたたかい紅茶のM。
おまけに揚げたてのフライドポテトをもらった。あぁ、友情最高。

木陰のベンチが空いたので、先生とふたりで腰掛けた。金色の粒が芝生に散りしいているのを見て俺が首を傾げたら、「レンギョウだよ」と先生が教えてくれた。近くで、金色の粒のような花をたっぷりまとった木がわさわさしている。

「先生は、なんで法学部を選んだんですか」
コーラを3分の1くらい一気に飲んで、気分がスッキリしたところで、俺は先生にそう聞いてみた。
「自分の身は自分で守らなきゃ」
「そのために法律の勉強を」
「そう」
先生は紙のフタを開け、紅茶をひと口飲んで、あつっと小さく悲鳴を上げた。先生は猫舌だ。
「先生、俺、水持ってます。まだ開けてないの」
「ありがとう。慣れてるから大丈夫」
- 自分の身は自分で守らなきゃ。
- 趣味。でも、身を助けるよ。
(ブレない。先生はいつもまっすぐ前を見ている)
俺はフライドポテトを1本食べた。サクサクだった。塩とケチャップとマスタードを、友人は別袋に用意しておいてくれた。あいつ、気がまわりすぎる。休みの日も働いてるし。あとでお礼しなきゃ。
「先生の好きなこと、いっぱい教えてください」

木漏れ日が先生のつややかな黒髪に、ティアラのような影を作っていた。
「じゃあ、
きみの好きなこともいっぱい教えて」

先生の微笑みはいつも控えめでミステリアス。でも、とても魅力的だ -