センセイは透明感ハンパない

「先生、こんにちは!!
あだっ!!」
家の最寄り駅前のコンコースで先生と待ち合わせた。10分前にもう先生は時計台の下にいて、俺は嬉しさのあまり右手を上げて、スーパーの前に止めてある自転車の波に突っこんでしまった。近くに駐輪場あるじゃん!! 違法駐車!!
「大丈夫?」
「あ、はい。自転車無事」
「きみのことを聞いてるんだよ」
キュンとした。

土曜日10時の電車はほどよく混んでいる。都心とは逆へ向かうからまだましかな。俺は手すりを先生に譲った。早く席あかないかな。先生を座らせてあげたい。
先生は髪を後ろでシニヨンにしていた。清楚なラベンダー色のワンピース姿で、同じ色のパンプスを履いている。ちょっとかかとが高いものを。
(綺麗だなぁ)
窓の外は青空。ビルの窓に日光が反射して鏡のようだ。散歩するにはもってこいの天気。図書館へ行ったあと、食事に誘ったら、先生は来てくれるだろうか。
と、

先生の脇に座っているおじさんの右手が、不審な動きをしているのに気づいた。
(まさか、痴漢!? 先生に!?)
助けなきゃ!!
俺があわてて先生をその男から遠ざけようとしたら、
先生のパンプスが、男の汚れたスニーカーを踏んだ。踏んで、ぎゅうっとひねった。
(あ)
「恋人いないんですね」

男は次の駅で駅員さんにしょっ引かれて行った。小さく背中を丸めて。近くにいたスーツ姿の男性3人も痴漢に気づいたらしく、スマートフォンで次の駅に連絡したようだった。
(せ、先生、強!!)

先生は平然としていた。先生を助けそこねた俺は、ただ先生を抱き寄せようとした変質者だった。(未遂だけど)
次こそは、と思うけれど、先生にも、誰にも痴漢になんて遭って欲しくない。俺は黙った。