センセイは透明感ハンパない

「ねぇ、何語で叱られたい?」

怖かった。
と同時にときめいてしまった。

高校1年生の春休みに浮かれ過ぎたのか、2年生になって初めての試験で順位を100以上落としてしまった。
両親は激怒し、俺に塾へ行くか家庭教師を呼ぶかの二択を迫った。そして、
家にやってきたのは、
長い黒髪を持つ清楚な大学生美女 -

「きみ、基礎はしっかりできているんだね。それなら応用もすぐにできるようになるよ」
日本の最高学府の法学部に在籍するその美女と俺は、家庭教師登録サイトの性格マッチングで出会った。重めの前髪、背中までを覆う豊かな髪、ひかえめなメイク。小柄で華奢で、白い丸い顔にまつ毛の長いくりっとした目と、ピンク色のおちょぼ口を持っていた。どこか名のある家のお嬢様が社会勉強のために家庭教師を始めたのかな、と思った。とんでもなく頭の良いひとだ。6カ国語を話す才媛。

「留学したことないよ」
俺の部屋の南側の窓から入る冷たい夜風に髪を揺らし、彼女はあっさりとそう言った。マンションの5階からは歩いて10分ほどのスーパーやファミリーレストラン、ハンバーガーショップや書店などの灯りがかろうじて見える。
「語学は趣味」
「趣味、」
「でも、身を助けるよ」
趣味が身を助ける。その言葉が刺さった。得意科目のない俺は、まず、得意科目を作ろうと思った。
「先生の趣味って、ほかにありますか」
「読書」

次の日、
俺はさっそく学校の図書館へ行き、仲の良い図書部員にオススメの本を聞いて借りた。ミステリーだった。
SNSの漫画ばかり読んでいた俺にとって、小説はとても読みにくいものだったが、「1日1ページ以上」を目標に掲げて、電車の中や学校、寝る前などに少しずつ読んでいる。

「あぁ、その本読んでるんだね」
先生にその薄い本を見せたら、小さな花のように笑ってくれた。
「おもしろいよ。それ」
先生のその一言で、その本が一気に面白くなった。俺って単純だな。