キッチンで後片付けをしている花恋。
きれいにまとめた髪、控えめなメイク。清楚な横顔に、湯気がふわっとかかる。

花恋(モノローグ)
(この家で暮らすって、やっぱり無理じゃないかな)
(全員、元カレ。しかも、私がフッた側……)
(過去のことなんて、お互い水に流したって思ってたのに)
(……あれ、そう思ってるの、私だけ?)

ト書き:
背後から、マグカップを差し出す手。
顔を上げると、笑顔のうる。

千堂 うる(にこにこ)「花恋ちゃん、お茶いれたよ〜」

花恋(微笑んで)「ありがと、助かる」

千堂 うる「ねえ、今日さ……久しぶりに話せてうれしかった」
「やっぱり花恋ちゃんって、かわいくて優しくて……」

花恋「ちょ、ちょっとストップ〜。そんな褒めても何も出ないよ?」

千堂 うる(ちょっと唇を尖らせて)「えー、花恋ちゃん昔は、もっと“ありがと♡”って言ってくれてたのに〜」

花恋(苦笑い)「昔の私とは違うんだってば」

ト書き:
花恋がコップを片付けようとしたそのとき。
うるが、ふいに手首を掴む。

千堂 うる(声のトーンが落ちる)「……じゃあ、今の私は? “元カレ”には、冷たいの?」

花恋(動揺して振り返る)「……うる?」

ト書き:
うるはにっこりと笑っている。けれど目は、笑っていない。

二人きり。
ソファに座る花恋。その横にぴたっと座るうる。
距離が、近い。

千堂 うる「ねえ、花恋ちゃんって、なんで俺と別れたんだっけ」

花恋(少し戸惑って)「え? ……たしか、“受験に集中したい”って……」

千堂 うる(ふっと笑う)「あー、それ、嘘だったんだよね」

花恋(固まる)「……え?」

千堂 うる(微笑んだまま)「本当は、俺が他の子と仲良くしてるの見て、ヤだったんでしょ?」

花恋「……そんなこと──」

千堂 うる(じっと目を見て)「あの時の花恋ちゃん、“独占欲強いね”って、自分で言ってた」

花恋(モノローグ)
(うるの目が、怖い)
(あの頃は……あんな目、してなかった)

ト書き:
うるが花恋のスマホをそっと覗き込む。

千堂 うる(小声)「ねぇ、まだ連絡取ってる人いる? 他の男と」

花恋(驚いて)「なっ……見ないでよ!」

ト書き:
思わずスマホを引き戻す花恋。
うるはしゅんとしたふりをしつつ、片目だけ笑っていない。

千堂 うる「……やっぱり、いるんだ」

花恋「違うってば! ただの友だち──」

千堂 うる(遮るように)「俺、“友だち”って言葉、信じないから」

ト書き:
うるがゆっくりと立ち上がり、ソファの背もたれに手をつく。
花恋を、真上から覗き込む構図。

千堂 うる(ささやくように)
「ねえ、花恋ちゃん。“一番”になっていい?」

花恋(目を見開いて)「……え?」

千堂 うる(声が甘くて、熱い)
「もう一度、付き合お? 他の誰かに、触れさせたくないから」

ト書き:
花恋、動けない。
距離が近い。心臓が、うるさい。
だけど──

花恋(モノローグ)
(ダメ……この人、かわいい顔して)
(ぜんっぜん、かわいくない……)

ト書き:
花恋がふいに席を立ち、足早に部屋を出ていく。

廊下の陰で、ひとり残るうる。

千堂 うる(小声)
「……逃げても、ムダだよ。花恋ちゃんは……僕のだから」