葉月がひと息ついて、優しい顔で言う。「榎本は頭いい子だから大丈夫だよ。これからも頑張って。次は赤点取るなよ。」
目を細めて笑う顔が、大人っぽかった。
なんで、この人はいつもこんなに淡々としてるんだろう。私よりもはるかに多くのことを知っていそうなのに、なぜそれを表に出さずいつも笑ってるんだろう。
「クラスの子には言った?」
「言ってない」
「なんか、突然いなくなるの格好良いじゃん。」
葉月がにやって笑う。
全然わからない。
「そんなこと言ったって」
じゃあなんで私には言ったんだろう。
「ちゃんとお別れしたい子とかいるんじゃないの?」
葉月が口を尖らす。
「じゃあお別れ会してくれる?」
「?…うん。」
会を開いたりすることは苦手だけど、お願いされたら、するしかない。
葉月が、机の上に、一枚のチラシを置く。
「うん?」
見ると、花火大会のチラシだった。
「え……」
葉月が、私のことを指さす。「ちゃんと、お別れしたい子。」



