花火大会当日。
打ち上げまであと5分。
私はというと、迷子になっていた。
出店にドリンクを買いに来たものの、帰り道がわからない。完全に元いた場所を忘れた。スマホを開いて友達に電話をかけるけど、人が多すぎて電波悪くて、全然繋がらない。
終わった。完全に迷子。
もう、人多すぎて、わかんないよ〜〜〜〜。もうパニックになって泣きかけたとき、後ろから肩をポンポンって叩かれて、振り返る。
「誰か人探してます?一緒に探しましょうか?」
どうしたらいいか分からずパニックになっていた私の世界に現れた優しい人。
「あっ、えっと…」
顔をあげると、そこにいたのは葉月だった。
「ハ………?」
一拍遅れて、葉月が、「えっ、」って目を見開く。
花火大会の見物客でごった返す通路の真ん中で、東京のど真ん中で、私たちはふたたび、出会った。
「なんでここにいんの……?」
「あ、私、今東京で働いてて」
「えっまじで!?」葉月が口元を手で覆ってから、ふふって可笑しそうに笑う。「なんかすごい迷子になってる子いるなぁって心配なって声かけた。」
眉を下げて葉月が笑う。
「榎本変わったな。いや、変わってないな。」
「どっちなの。」
「めっちゃ、大人っぽくなった。」
「葉月も」
葉月は、すっごく大人っぽくなった。背もあの時より伸びた。でも、笑った時に上がる口角の感じとか、身にまとう柔らかい雰囲気とかは、あのときのままだった。



