力強く返事すると、広野からスマホを手渡された。
画面に、キジ猫がくつろいだりたわむれたりする写真がどんどん出てくる。
「かっ、可愛いですねえ…!」
「でしょ、でしょ。この子、保護猫だったんだよね。うちの母なんか、ペットショップで買いなさいって言うんだけど、僕、どうしてもこいつを家に迎えたくなっちゃって。母、口説き落としたよ。僕、あんまりわがまま言わない方だけど、この時は頑張ったかな」
「それは…ものすごく頑張れられましたね…」
春奈は少なからず感心していた。保護猫を引き取るのは、簡単じゃない。随分、心を砕いて接したんだろうな、と推測できた。
この人、いい人なのかもしれない…。
写真を見てもいい人そう、とは思ったが、予想以上にいい人そうだ。
なんだか、この人の前で失敗して迷惑をかけるのが気の毒になってきた。
その後も、広野の猫談義は続き、春奈は、ついつい引き込まれ、その内、笑いあったり、はしゃいだりしてしまった。
気が付けば、料理のコースは終盤、デザートとなっていた。
「このイチゴ、美味しいね」
広野が、にっこり微笑んで言った。
「はい、本当に…」
ダメだ、失敗をする空気じゃない。そもそも失敗しようという魂胆からよくなかった。
くつろいで、リラックス、と言っていたから、広野の人となりは、この食事の時間だけでもよくわかった。気立てのいい、優しい青年だ。
こういう人に、わざとだましうちの失敗なんてしちゃダメだ。
春奈は、最後の一口のイチゴをぱくっと食べて、美味しい、と呟いた。
二人は、食事を終えると、料亭を出て、ホテルのロビーに戻ってきた。秋江は、肩透かしをくらって面白くなかったのか、さっさと帰ったようだ。
「春奈さん、今日は、ありがとうございました。楽しかったです」
広野は、にっこりと微笑んだ。その言葉に嘘はないようだ。確かに、春奈も楽しかった。だからこそ、と春奈は思った。
「ひ、広野さんっ」
頭を下げて春奈は言った。
「ごめんなさい、私、事情があって、あなたとは結婚できませんっ」
声が大きかったようだ。周囲が少しざわっとした。でも、それくらいしないと本気度が伝わらない気がした。
「え…えーと…春奈さん、まず頭をあげて」
少し動揺した感じの広野の声が聞こえてきた。顔をあげると、眉毛をはの字にして、微笑んでいる。
「あの…僕もすぐ結婚とか考えてるわけじゃないんです。母との約束で、三回ほどお見合いすることになっていて、その三回目がこれなんです。だからこれで、お見合いからは解放されるから…僕も、なんだかのびのびしちゃって」
「はあ…じゃ、結婚はなし…」
思いがけない形で、描いていたゴールに到達できて、春奈は、ほっとした。
「うん、そう。ただ…結婚は僕も考えられないけど、春奈さんのこと気に入ったから、これからお茶とか時々したいです。…どうですか?」
…あれ?
思いがけない方向から矢が飛んできた。
時々、お茶…結婚じゃなかったら、いいんだっけ…?
「えっと…ダメ、かな?」
頭の中がぐるぐるしてうまくまとまらない春奈に、広野も気弱な声を出した。
春奈は、自分が、今まさに目の前の優しい人を困らせている、ということまでは把握できた。
「じゃ、じゃあ…お茶なら…」
「本当ですか。よかった。じゃあ、連絡先を交換しましょう」
広野がにこやかにスマホを取り出した。
QRコードを読み取って互いにメッセージが送れるようにした。
「これで、お茶、誘えますね」
「は、はあ...。」
確かに連絡先を交換できたのは嫌ではなかった。春奈は、スマホをバッグに戻した。
その時、何かが手に当たって、バッグから滑り落ちた。
あ、と思って床に目をやると、一人の男性がかがんで、それを拾ってくれた。
春奈は振り返った。
「ありがとうございます」
「大事なバスカードだ」
その男性が背を伸ばし、春奈に交通系ICカードを差し出す。春奈は、目を見開いた。
なぜなら、その男が、ずっと連絡したいと思っていた藤原だったのだ。
画面に、キジ猫がくつろいだりたわむれたりする写真がどんどん出てくる。
「かっ、可愛いですねえ…!」
「でしょ、でしょ。この子、保護猫だったんだよね。うちの母なんか、ペットショップで買いなさいって言うんだけど、僕、どうしてもこいつを家に迎えたくなっちゃって。母、口説き落としたよ。僕、あんまりわがまま言わない方だけど、この時は頑張ったかな」
「それは…ものすごく頑張れられましたね…」
春奈は少なからず感心していた。保護猫を引き取るのは、簡単じゃない。随分、心を砕いて接したんだろうな、と推測できた。
この人、いい人なのかもしれない…。
写真を見てもいい人そう、とは思ったが、予想以上にいい人そうだ。
なんだか、この人の前で失敗して迷惑をかけるのが気の毒になってきた。
その後も、広野の猫談義は続き、春奈は、ついつい引き込まれ、その内、笑いあったり、はしゃいだりしてしまった。
気が付けば、料理のコースは終盤、デザートとなっていた。
「このイチゴ、美味しいね」
広野が、にっこり微笑んで言った。
「はい、本当に…」
ダメだ、失敗をする空気じゃない。そもそも失敗しようという魂胆からよくなかった。
くつろいで、リラックス、と言っていたから、広野の人となりは、この食事の時間だけでもよくわかった。気立てのいい、優しい青年だ。
こういう人に、わざとだましうちの失敗なんてしちゃダメだ。
春奈は、最後の一口のイチゴをぱくっと食べて、美味しい、と呟いた。
二人は、食事を終えると、料亭を出て、ホテルのロビーに戻ってきた。秋江は、肩透かしをくらって面白くなかったのか、さっさと帰ったようだ。
「春奈さん、今日は、ありがとうございました。楽しかったです」
広野は、にっこりと微笑んだ。その言葉に嘘はないようだ。確かに、春奈も楽しかった。だからこそ、と春奈は思った。
「ひ、広野さんっ」
頭を下げて春奈は言った。
「ごめんなさい、私、事情があって、あなたとは結婚できませんっ」
声が大きかったようだ。周囲が少しざわっとした。でも、それくらいしないと本気度が伝わらない気がした。
「え…えーと…春奈さん、まず頭をあげて」
少し動揺した感じの広野の声が聞こえてきた。顔をあげると、眉毛をはの字にして、微笑んでいる。
「あの…僕もすぐ結婚とか考えてるわけじゃないんです。母との約束で、三回ほどお見合いすることになっていて、その三回目がこれなんです。だからこれで、お見合いからは解放されるから…僕も、なんだかのびのびしちゃって」
「はあ…じゃ、結婚はなし…」
思いがけない形で、描いていたゴールに到達できて、春奈は、ほっとした。
「うん、そう。ただ…結婚は僕も考えられないけど、春奈さんのこと気に入ったから、これからお茶とか時々したいです。…どうですか?」
…あれ?
思いがけない方向から矢が飛んできた。
時々、お茶…結婚じゃなかったら、いいんだっけ…?
「えっと…ダメ、かな?」
頭の中がぐるぐるしてうまくまとまらない春奈に、広野も気弱な声を出した。
春奈は、自分が、今まさに目の前の優しい人を困らせている、ということまでは把握できた。
「じゃ、じゃあ…お茶なら…」
「本当ですか。よかった。じゃあ、連絡先を交換しましょう」
広野がにこやかにスマホを取り出した。
QRコードを読み取って互いにメッセージが送れるようにした。
「これで、お茶、誘えますね」
「は、はあ...。」
確かに連絡先を交換できたのは嫌ではなかった。春奈は、スマホをバッグに戻した。
その時、何かが手に当たって、バッグから滑り落ちた。
あ、と思って床に目をやると、一人の男性がかがんで、それを拾ってくれた。
春奈は振り返った。
「ありがとうございます」
「大事なバスカードだ」
その男性が背を伸ばし、春奈に交通系ICカードを差し出す。春奈は、目を見開いた。
なぜなら、その男が、ずっと連絡したいと思っていた藤原だったのだ。



