春奈は、その申し出に、心を奪われた。もう二度と描けないと思っていた絵が、描けるかもしれない。
「だから…君は、俺の家で一緒に暮らしたらいい、と思うんだが。どうだろう。今やってるデータ入力のバイトは辞めて、うちで絵を描く。俺は、仕事でほとんど家にいないから、
自由にうちを使ってくれたらいい」
春奈は、やっと藤原の言ってくれていることの全貌がわかってきた。
「そんな…それだと、私が藤原さんにごやっかいになるばっかりで、藤原さんに何のメリットもないじゃないですか。いけません、そんなの」
藤原は、顔に入れていた力を、ふっと抜いた顔をした。口元に笑みさえ浮かんでいる。
「俺のメリットっていうか、これもお願いなんだが…春奈さんの作る朝食が食いたい」
「へっ?」
あまりにも思いがけない申し出で、春奈は目が覚める気がした。
「毎日、春奈さんとラインのやりとりして、朝食を見せてもらってただろう。日に日に春奈さんの朝食を食べたい気持ちが膨らんでいって…どうかな。あ、それとも絵を描きながら朝食を作るのは大変だろうか?」
「いえっ、そんなことは、全然、ないです」
春奈からしたら、朝食さえ作れば、後は絵を描けるのだ。これ以上ない好条件だ。
「でも…本当に…本当に、私が藤原さんのおうちに住んでもいいんですか?」
「うん。ぜひそうしてほしい。春奈さんの朝メシ、食いたいよ」
微笑む藤原の目を覗き込みながら、春奈はこれからのことを考えた。あまりにも唐突な申し出で、頭がついていかない。
「でも…場所が変わっても、描けないかもしれないし…」
藤原は、うん、と頷いた。
「だからさ。お試し期間を設けよう。一週間でも、一か月でもいい。まずは、俺のうちで描けるかどうか、実験するんだ。つまりこの申し出は、契約結婚だと思ってくれたらいい」
「契約…結婚」
「そう。春奈さんは絵が描けるかもしれないし、俺は春奈さんの作る朝メシが食べられる。
これ以上にない条件だと思う」
契約結婚…聞きなれない言葉を、じっくり考える。
「つまり…お互いのメリットのための、お試し期間みたいなもの…?」
藤原は、大きく頷いた。
「そうだ。そう思ってくれていい。身軽に、身体ひとつで来ないか。ああ、でも絵の道具とかは、いるな」
「藤原さんと暮らす…」
いきなり他人と暮らすのは、ハードルが高い。でも相手が藤原だったら。大好きな藤原と暮らせるなんて夢のようだ。これまではたまにしか会えなかったけれど、一緒に暮らしたら朝ごはんの時に、いつも会えるんだ…
一緒に暮らす、ということが立体的になってきた。
「藤原さんと暮らしていいのなら…お試しの契約結婚、したいです」
ぼそぼそと春奈は言った。まだ本当にいいのだろうか、と半信半疑だ。
「そうか。よかった。今度の週末、早速来てみたらいい。こっちも準備しておくよ」
はい、と返事しながら、春奈は頭の中が忙しい。
ぐるぐると考えをめぐらして、何かが片手落ちなのに気づいた。大事なことを忘れている気がする。
藤原さんと暮らす。この家を空ける。この家は。
「あのっ、藤原さん、私、まだ、言ってないことが」
春奈が慌てた声を出し、藤原が、うん?と聞き返した。
「だから…君は、俺の家で一緒に暮らしたらいい、と思うんだが。どうだろう。今やってるデータ入力のバイトは辞めて、うちで絵を描く。俺は、仕事でほとんど家にいないから、
自由にうちを使ってくれたらいい」
春奈は、やっと藤原の言ってくれていることの全貌がわかってきた。
「そんな…それだと、私が藤原さんにごやっかいになるばっかりで、藤原さんに何のメリットもないじゃないですか。いけません、そんなの」
藤原は、顔に入れていた力を、ふっと抜いた顔をした。口元に笑みさえ浮かんでいる。
「俺のメリットっていうか、これもお願いなんだが…春奈さんの作る朝食が食いたい」
「へっ?」
あまりにも思いがけない申し出で、春奈は目が覚める気がした。
「毎日、春奈さんとラインのやりとりして、朝食を見せてもらってただろう。日に日に春奈さんの朝食を食べたい気持ちが膨らんでいって…どうかな。あ、それとも絵を描きながら朝食を作るのは大変だろうか?」
「いえっ、そんなことは、全然、ないです」
春奈からしたら、朝食さえ作れば、後は絵を描けるのだ。これ以上ない好条件だ。
「でも…本当に…本当に、私が藤原さんのおうちに住んでもいいんですか?」
「うん。ぜひそうしてほしい。春奈さんの朝メシ、食いたいよ」
微笑む藤原の目を覗き込みながら、春奈はこれからのことを考えた。あまりにも唐突な申し出で、頭がついていかない。
「でも…場所が変わっても、描けないかもしれないし…」
藤原は、うん、と頷いた。
「だからさ。お試し期間を設けよう。一週間でも、一か月でもいい。まずは、俺のうちで描けるかどうか、実験するんだ。つまりこの申し出は、契約結婚だと思ってくれたらいい」
「契約…結婚」
「そう。春奈さんは絵が描けるかもしれないし、俺は春奈さんの作る朝メシが食べられる。
これ以上にない条件だと思う」
契約結婚…聞きなれない言葉を、じっくり考える。
「つまり…お互いのメリットのための、お試し期間みたいなもの…?」
藤原は、大きく頷いた。
「そうだ。そう思ってくれていい。身軽に、身体ひとつで来ないか。ああ、でも絵の道具とかは、いるな」
「藤原さんと暮らす…」
いきなり他人と暮らすのは、ハードルが高い。でも相手が藤原だったら。大好きな藤原と暮らせるなんて夢のようだ。これまではたまにしか会えなかったけれど、一緒に暮らしたら朝ごはんの時に、いつも会えるんだ…
一緒に暮らす、ということが立体的になってきた。
「藤原さんと暮らしていいのなら…お試しの契約結婚、したいです」
ぼそぼそと春奈は言った。まだ本当にいいのだろうか、と半信半疑だ。
「そうか。よかった。今度の週末、早速来てみたらいい。こっちも準備しておくよ」
はい、と返事しながら、春奈は頭の中が忙しい。
ぐるぐると考えをめぐらして、何かが片手落ちなのに気づいた。大事なことを忘れている気がする。
藤原さんと暮らす。この家を空ける。この家は。
「あのっ、藤原さん、私、まだ、言ってないことが」
春奈が慌てた声を出し、藤原が、うん?と聞き返した。



