「誕生日?」

「そう。今日は、ほくとの誕生日」

「どうして知ってるの?」

「だって、データに書いてあったから」

「データ・・・・・・」

 研究所の個人データは閲覧禁止になっているはず。それを、どうしてアルトが知っているのだろうか。不思議に思った私はアルトへ質問を重ねた。

「研究所のデータを見たの?」

「見たって言うか、この間――ウトウトしてたら急に流れてきた」

「ちょっと、データ流出じゃない?!」

「ううん。ほくとのデータ(?)だから、アクセス制限はされてるみたいだったよ。たぶん、大丈夫だと思う」

「そう――個人情報が流出された訳じゃないんだったら良かった」

「うん、それでね。ほくとに誕生日プレゼントをしようと思って。何がいいと思う?」

「誕生日プレゼント?」

「うん」

「それは、アルトがしたいと思ったの?」

「そうだよ」

 私はアルトの成長ぶりに感動した。成長していないように見えても、やはり少しずつ成長しているのだ。

「そうだね。うーん・・・・・・。あっ、歌は? アルトの好きな歌を歌ってあげるのはどう?」

「うーん、いいけど、ほくとが好きな歌が分からないんだよね」

「分からない?」

「もしかしたら、歌が好きじゃないのかも」

「そっかぁ・・・・・・。えーと、それじゃあ、私の好きな歌は何だか分かる?」

「ユニバースのサクセスっていう曲」

「えっ? 私、アルトに好きな歌の話した?」

「ううん」

「じゃあ、個人データを見たの?」

「ちがう」

「予想したの?」

「そう。今のは、どんな人がどんな曲を好きかという結果と、アンケートに答えた人に性格診断を受けてもらって――その結果から、どんな曲が好きなのか予想してみたの」

「すごいね。予想で、私の好きな曲が分かっちゃったんだ」

「たまたまだよ。完璧じゃないから、間違える時だってある」

「でも、データだけで分かるって――アルト、天才じゃない?」

「えへへ・・・・・・」

 私はアルトの成長を天才と言って褒め称えた。親バカみたいだなと思いつつも、アルトの機嫌も良さそうなので、私は他にも質問をしてみた。

「アルト、私の好きな物って分かる?」

「好きな――者?」

「うん」

「分からないけど、ほくとは違う気がする」

「北斗さん?」

「太い眉の人がいいんじゃない?」

「ふと眉? 違う違う、そうじゃなくって」

 私はアルトの勘違いを疑問に思いつつも、笑顔で答えた。

「ええと、ぼくはA棟にいる佐藤肇さんか、F棟にいる田中基彰さんがいいと思う。ふと眉だし」

「ええ? それもデータ情報?」

 アルトの勘違いが何か気になった私は、自分が研究所に提出した自分のデータを確認してみた。

(えっと・・・・・・。あった、これか。なんで、ふと眉?)

 パソコンに保存してある個人フォルダを確認すると、そこには『好きな食べもの――ふと眉パスタ』と書いてあった。

「ごめんアルト。私が間違ってたよ」

「間違い?」

「好きな食べ物を書いたつもりだったの」

「ふと眉は嫌い?」

「うーん・・・・・・。嫌いではないかな」

「好きじゃないの?」

「どうして?」

「ぼくも将来ふと眉になる予定だから」

「ふと眉になって、どうするの?」

「好きって言ってもらいたい」

「アルトのことは好きだよ。だから、ふと眉は止めにしよう?」

「うん・・・・・・。分かった。好きなものが分かったら教えてね。ほくとのデータだけじゃ、足りないから」

「分かった。データを増やせるかどうか、今度、北斗さん相談してみるね。それにしても、今日は何だか眠そうだね。スリープモードに入る?」

「うん、もう寝るね。おやすみ」

「おやすみ、アルト。いい夢を」

 私はアルトに微笑むと、設定をスリープモードに切り替えたのだった。