サフィニアを連れてポルトスは東棟へ向かっていた。
自分の少し後ろをついて歩くサフィニア。俯き、すっかり意気消沈した姿は哀れでならなかった。
(何と哀れなことなのだろう。サフィニア様には何の罪も無いと言うのに……それにローズだって、旦那様から無理やり手籠めにされて妊娠してしまった被害者なのに……あまりに旦那様は酷すぎる。何故サフィニア様にこんな仕打ちをするのだろう?)
ポルトスがここまで深刻に考え込むのには理由があった。
何故なら東棟は、使用人達が暮らす場所だったからだ。当然部屋は狭く、生活に必要な最低限な家具しか用意されていない。
そして5時半にはベルが響き渡り、全員起きて仕事をしなければならないのだ。
(東棟で暮らすと言うことは、いやおうなしに働かなければならなくなる。いくらまだ6歳の子供とは言え、サフィニア様だけ仕事を免除すれば他の使用人たちから嫉妬の目を向けられて虐められるかもしれない……)
エストマン公爵家の使用人達は一番年齢が幼い子供は10歳から仕事をしている。
(幸い、サフィニア様はまだたったの6歳。年齢を考慮し、簡単な仕事だけをさせるようにすることはできるな……)
そこでポルトスはサフィニアに声をかけた。
「サフィニア様、歩きながら聞いて下さい」
「はい……」
「これからサフィニア様が住む東棟は、使用人達だけが暮らす場所です。全員が働かなければならないのです。勿論サフィニア様も東棟に暮す限り、働かなくてはいけません。そうしなければ、他の使用人達から虐められてしまう可能性が高いでしょう。いくら……たった6歳といえども」
「……」
サフィニアは黙って話を聞いている。
「サフィニア様がエストマン公爵の娘であることも知られてはなりません。それすら、虐められる原因になってしまうでしょう。……このような言い方をしてはサフィニア様が傷付くかもしれませんが、正直に言います。エストマン公爵に可愛がられていれば、使用人だけが暮らす東棟に住まわせるはず無いからです。きっと父親から見捨てられた令嬢と言うことで、虐めの対象になる可能性が高いです」
「私……パパの子供だって知られたら、皆に虐められちゃうの……?」
ポルトスの言っている言葉は、まだ6歳のサフィニアには難し過ぎた。ただ分かったことは、自分がこの家の子供だと言うことが知られたら、虐められるということだった。
「はい、そうです。酷なことを言っているのは承知の上です。私が四六時中、サフィニア様のお傍にいられると良いのですが、ここで働く全ての使用人をまとめている私には忙しくて出来ないのです。……申し訳ございません」
ポルトスは頭を下げてきた。
「なので、サフィニア様。絶対に自分が公爵家の娘だと言うことは知られてはなりません。朝は5時半に起きて仕事をしなければなりませんが、サフィニア様はまだ
6歳。私の方から、まだあまりきつい仕事はさせないように上の者達に話しておきます。……それ位しか、今はサフィニア様にしてあげられません。本当に……申し訳ございません」
「大丈夫、私働くのは慣れてるから」
「え? 慣れている……?」
まさか6歳の子供から、そんな言葉が出てくるとは思わず、ポルトスは首を傾げる。
「ママは、私を産んでから身体が弱くなっちゃったんだって。だから私、沢山ママのお手伝いしたんだよ。早く元気になって欲しくて頑張ったのに……でもママは……」
目に涙が浮かび、サフィニアは涙が溢れないようにゴシゴシこすった。
必死で泣くのを我慢するサフィニアの姿に、ポルトスの胸は締め付けられた。
(何とかしてあげられればいいのだが……私に出来ることは……。そうだ! あの子にサフィニア様のことを頼めば良いのだ……!)
ポルトスの頭に良い考えが浮かんだ――
自分の少し後ろをついて歩くサフィニア。俯き、すっかり意気消沈した姿は哀れでならなかった。
(何と哀れなことなのだろう。サフィニア様には何の罪も無いと言うのに……それにローズだって、旦那様から無理やり手籠めにされて妊娠してしまった被害者なのに……あまりに旦那様は酷すぎる。何故サフィニア様にこんな仕打ちをするのだろう?)
ポルトスがここまで深刻に考え込むのには理由があった。
何故なら東棟は、使用人達が暮らす場所だったからだ。当然部屋は狭く、生活に必要な最低限な家具しか用意されていない。
そして5時半にはベルが響き渡り、全員起きて仕事をしなければならないのだ。
(東棟で暮らすと言うことは、いやおうなしに働かなければならなくなる。いくらまだ6歳の子供とは言え、サフィニア様だけ仕事を免除すれば他の使用人たちから嫉妬の目を向けられて虐められるかもしれない……)
エストマン公爵家の使用人達は一番年齢が幼い子供は10歳から仕事をしている。
(幸い、サフィニア様はまだたったの6歳。年齢を考慮し、簡単な仕事だけをさせるようにすることはできるな……)
そこでポルトスはサフィニアに声をかけた。
「サフィニア様、歩きながら聞いて下さい」
「はい……」
「これからサフィニア様が住む東棟は、使用人達だけが暮らす場所です。全員が働かなければならないのです。勿論サフィニア様も東棟に暮す限り、働かなくてはいけません。そうしなければ、他の使用人達から虐められてしまう可能性が高いでしょう。いくら……たった6歳といえども」
「……」
サフィニアは黙って話を聞いている。
「サフィニア様がエストマン公爵の娘であることも知られてはなりません。それすら、虐められる原因になってしまうでしょう。……このような言い方をしてはサフィニア様が傷付くかもしれませんが、正直に言います。エストマン公爵に可愛がられていれば、使用人だけが暮らす東棟に住まわせるはず無いからです。きっと父親から見捨てられた令嬢と言うことで、虐めの対象になる可能性が高いです」
「私……パパの子供だって知られたら、皆に虐められちゃうの……?」
ポルトスの言っている言葉は、まだ6歳のサフィニアには難し過ぎた。ただ分かったことは、自分がこの家の子供だと言うことが知られたら、虐められるということだった。
「はい、そうです。酷なことを言っているのは承知の上です。私が四六時中、サフィニア様のお傍にいられると良いのですが、ここで働く全ての使用人をまとめている私には忙しくて出来ないのです。……申し訳ございません」
ポルトスは頭を下げてきた。
「なので、サフィニア様。絶対に自分が公爵家の娘だと言うことは知られてはなりません。朝は5時半に起きて仕事をしなければなりませんが、サフィニア様はまだ
6歳。私の方から、まだあまりきつい仕事はさせないように上の者達に話しておきます。……それ位しか、今はサフィニア様にしてあげられません。本当に……申し訳ございません」
「大丈夫、私働くのは慣れてるから」
「え? 慣れている……?」
まさか6歳の子供から、そんな言葉が出てくるとは思わず、ポルトスは首を傾げる。
「ママは、私を産んでから身体が弱くなっちゃったんだって。だから私、沢山ママのお手伝いしたんだよ。早く元気になって欲しくて頑張ったのに……でもママは……」
目に涙が浮かび、サフィニアは涙が溢れないようにゴシゴシこすった。
必死で泣くのを我慢するサフィニアの姿に、ポルトスの胸は締め付けられた。
(何とかしてあげられればいいのだが……私に出来ることは……。そうだ! あの子にサフィニア様のことを頼めば良いのだ……!)
ポルトスの頭に良い考えが浮かんだ――



