「サフィニア様!」
医務室にやってくると、ポルトスは椅子に座っていたサフィニアに駆け寄った。その後をセザールも続く。
「あ! ポルトスさん! こんにちは」
サフィニアはペコリと頭を下げた。ポルトスはサフィニアの前に跪いた。
「怪我の具合はどうですか? 痛いですか?」
「まだちょっと痛いけど、先生が手当てしてしてくれたから大丈夫……です」
けれど、サフィニアの今の姿は酷い有様だった。銀色の髪はぼさぼさに乱れ、大きすぎるメイド服は破け、白いエプロンはすっかり汚れていた。
その姿はポルトスの目に、とても哀れに映った。
(仮にもサフィニア様は公爵令嬢だと言うのに……これではあまりにお気の毒だ)
ポルトスは胸を痛めながら、サフィニアに話しかけた。
「セザールからサフィニア様の話を聞き、とても驚きました。メイド仲間から鶏小屋の掃除を言いつけられたそうですね? 本来鶏小屋の掃除は危険が伴う為、フットマンが数人で掃除を行うのが決まりなのです。誰がそのような無謀な命令をサフィニア様に言いつけたのかは、セザールから聞いています。その者たちには私の方から厳しく叱ってそれなりの罰を与え、もう二度とサフィニア様に嫌がらせをしないように命じます」
「え? あの人たちを怒るの?」
「当然です。あの者達はサフィニア様の命を危険に晒したのですから」
「命を危険に晒す……?」
ポルトスの言葉の意味が分からず、サフィニアは首を傾げる。
「つまり、サフィニア様に大怪我をさせようとしたということですよ」
セザールが分かりやすく説明した。
「え!? そうだったの? だから怒るの……?」
「ええ、それに罰も与えます」
するとサフィニアが怯えた様子で訴えてきた。
「そんなことしないで! そしたら、私もっとあの人たちから虐められちゃうから! 私なら大丈夫、我慢するから……」
ガタガタと震えるサフィニア。その様子から、鶏小屋でサフィニアがどれほど怖い目に遭ったのか、ポルトスは容易に分かってしまった。
「サフィニア様……」
(確かに、サフィニア様の言う通りだ。自分たちが叱られて罰を受ければ、当然サフィニア様を逆恨みするだろう。しかしだからと言って、まだ6歳の少女を危険に晒す行為は目を瞑ることが出来ない。かくなるうえは……)
そこでポルトスは本心を隠し、笑みを浮かべた。
「大丈夫です、絶対にサフィニア様があのメイド達に虐められることが無いようにしますから安心してください」
「ほ、本当に?」
「ええ、本当ですよ」
「あ、ありがとう……」
サフィニアがようやく笑顔になったところで、今迄黙って様子を見ていた医師が口を開いた。
「それにしても驚きです。まさか筆頭執事であるポルトス様が、怪我をしたメイドを心配して駆けつけてくるのですから」
公爵邸では数百人の使用人達が働いている。怪我や病気など日常茶飯事だが、今迄ポルトスが直に見舞ったことなど無かったからだ。そこでポルトスは医師に尋ねた。
「先生……今から話すことは、絶対に誰にも話さないと誓っていただけますか?」
「え? ええ。分かりました、私は医者です。お約束しましょう」
「実は、サフィニア様の父親はエストマン公爵なのです。そして母親はこの屋敷のメイドだったのですが……数日前に病で亡くなってしまいました」
「な、何ですって!?」
医師が驚いたのは……言うまでも無かった——
医務室にやってくると、ポルトスは椅子に座っていたサフィニアに駆け寄った。その後をセザールも続く。
「あ! ポルトスさん! こんにちは」
サフィニアはペコリと頭を下げた。ポルトスはサフィニアの前に跪いた。
「怪我の具合はどうですか? 痛いですか?」
「まだちょっと痛いけど、先生が手当てしてしてくれたから大丈夫……です」
けれど、サフィニアの今の姿は酷い有様だった。銀色の髪はぼさぼさに乱れ、大きすぎるメイド服は破け、白いエプロンはすっかり汚れていた。
その姿はポルトスの目に、とても哀れに映った。
(仮にもサフィニア様は公爵令嬢だと言うのに……これではあまりにお気の毒だ)
ポルトスは胸を痛めながら、サフィニアに話しかけた。
「セザールからサフィニア様の話を聞き、とても驚きました。メイド仲間から鶏小屋の掃除を言いつけられたそうですね? 本来鶏小屋の掃除は危険が伴う為、フットマンが数人で掃除を行うのが決まりなのです。誰がそのような無謀な命令をサフィニア様に言いつけたのかは、セザールから聞いています。その者たちには私の方から厳しく叱ってそれなりの罰を与え、もう二度とサフィニア様に嫌がらせをしないように命じます」
「え? あの人たちを怒るの?」
「当然です。あの者達はサフィニア様の命を危険に晒したのですから」
「命を危険に晒す……?」
ポルトスの言葉の意味が分からず、サフィニアは首を傾げる。
「つまり、サフィニア様に大怪我をさせようとしたということですよ」
セザールが分かりやすく説明した。
「え!? そうだったの? だから怒るの……?」
「ええ、それに罰も与えます」
するとサフィニアが怯えた様子で訴えてきた。
「そんなことしないで! そしたら、私もっとあの人たちから虐められちゃうから! 私なら大丈夫、我慢するから……」
ガタガタと震えるサフィニア。その様子から、鶏小屋でサフィニアがどれほど怖い目に遭ったのか、ポルトスは容易に分かってしまった。
「サフィニア様……」
(確かに、サフィニア様の言う通りだ。自分たちが叱られて罰を受ければ、当然サフィニア様を逆恨みするだろう。しかしだからと言って、まだ6歳の少女を危険に晒す行為は目を瞑ることが出来ない。かくなるうえは……)
そこでポルトスは本心を隠し、笑みを浮かべた。
「大丈夫です、絶対にサフィニア様があのメイド達に虐められることが無いようにしますから安心してください」
「ほ、本当に?」
「ええ、本当ですよ」
「あ、ありがとう……」
サフィニアがようやく笑顔になったところで、今迄黙って様子を見ていた医師が口を開いた。
「それにしても驚きです。まさか筆頭執事であるポルトス様が、怪我をしたメイドを心配して駆けつけてくるのですから」
公爵邸では数百人の使用人達が働いている。怪我や病気など日常茶飯事だが、今迄ポルトスが直に見舞ったことなど無かったからだ。そこでポルトスは医師に尋ねた。
「先生……今から話すことは、絶対に誰にも話さないと誓っていただけますか?」
「え? ええ。分かりました、私は医者です。お約束しましょう」
「実は、サフィニア様の父親はエストマン公爵なのです。そして母親はこの屋敷のメイドだったのですが……数日前に病で亡くなってしまいました」
「な、何ですって!?」
医師が驚いたのは……言うまでも無かった——



