孤独な公女~私は死んだことにしてください

 シャワー室は一番奥の部屋にあり、そこでサフィニアはクララからシャワーの使い方を教わることになった。

「このコックを捻れば、お湯が出るわ。でもこのままだと熱いから、こっちのコックを捻ってお水を出して調整するのよ」

クララはコックを捻りながら説明する。

「すごーい、お湯を沸かさなくても出てくるなんて」

サフィニアは便利な機能に目を丸くした。

「サフィニアは1人で髪や身体は洗えるのかしら?」

さすがにそこまでは出来ないだろうと思い、クララは尋ねた。

「うん、洗えるよ」

「まぁ! そんなことまで1人で出来るの? まだ6歳なのに?」

「うん……ママは病気だったから、自分で出来なきゃダメだったの」

「! そうだったのね……」

サフィニアの話にクララは胸を痛める。

(可哀そうに……親に頼れなかったから、サフィニアは自立せざるを得なかったのね……しかも、まだ6歳なのにメイドとして働かなければならなくなったのだから。気の毒過ぎるわ)

「でも、それなら大丈夫ね。試しにお湯を出してごらんなさい?」

サフィニアは教わった通り、コックを捻ってお湯と水を調整して丁度良いシャワーを出すことに成功した。

「……これでいい?」

その様子を見ていたクララは手を叩いた。

「すごい! 完璧だわ! サフィニアは頭が良いのね? はい、それじゃ石鹸を渡しておくわね。これは支給品だから大切に使うのよ」

クララは小箱に入った石鹸と陶器製の石鹸皿を渡してきた。

「ありがとう」

それらを受け取り、サフィニアはニコリと笑う。

「いいのよ。本当はまだシャワーを使えない時間だけど、サフィニアは小さいから早目に使わせてあげるわ。脱いだ服は、あのカゴに入れておくのよ。バスタオルや着替えは棚に置いておけばいいわ。大丈夫? 分かるかしら?」

クララの指さした先には、壁にピタリと寄せた棚があり、手前には大きなカゴが置かれている。

「うん、分かる」

「それじゃ、シャワーを浴びてらっしゃい。慌てなくても大丈夫だから。私は行くわね。何かあったら310号室にいらっしゃい」

クララは手を振ると去って行った。

「……シャワー浴びなきゃ」

サフィニアは棚に着替えの服やバスタオルを乗せると、脱いだメイド服をカゴに入れて、シャワーを浴び始めた。

「うわぁ……この石鹸、いい香り」

支給された石鹸はサフィニアが今迄使っていた石鹸とはまるで違っていた。泡立ちも良く、何より香りが良かった。しかし、それは当然のことだった。何しろここは、エストマン公爵邸なのだ。
離宮で暮らしていた時に使用していた石鹸は安い行商から買っていた石鹸だったからだ。

「……ママも、こんな素敵な石鹸……使えれば良かったのに……ママ」

不意に母、ローズのことを思い出してサフィニアの目に涙が浮かぶ。

「ううん、駄目駄目! 私が泣いたら、ママが神様の所へ行けないもの!」

サフィニアは首を振ると、頭からシャワーを被った。

そう、まるでシャワーで涙を流すかのように——