先程文字を勉強していた庭に戻ってくると、セザールは辺りを見渡した。
「人の気配は無いな……」
セザールはポケットからハンカチとリンゴを取り出すと、表面を綺麗に拭きとってサフィニアに差し出した。
「どうぞ、サフィニア様」
「……」
サフィニアはポカンとした顔でセザールを見上げる。
「……あ、もしかして皮を剥いて食べやすく切った方が良かったですか? 申し訳ございません。果物ナイフが今手元に無いもので……」
目を伏せて謝ると、サフィニアは首を振った。
「ううん、そうじゃないの。私、リンゴ貰っていいの?」
「え? 何故そう思うのですか?」
「だって、さっきのお兄ちゃんが言ってたじゃない。本当はおやつをあげられないって」
するとセザールは神妙な顔つきになる。
「何を言っておられるのですか? サフィニア様は公爵家の令嬢なのですよ? 本来であれば、このような場所にいる立場には無いのですよ?」
「だけど……私のママは、メイドだったんだよね? だからパパと一緒に暮せなかったんでしょう?」
じっと自分を見つめてくるサフィニアに、セザールは何と答えれば良いか分からなかった。
「と、とにかく今はリンゴを召し上がって下さい。誰かに見つかったら取り上げられてしまうかもしれませんから」
「うん」
サフィニアは頷くと、リンゴをかじった。
サクッ
リンゴを口に入れて噛みしめると、みずみずしい甘さと香りが口の中に広がる。
「美味しいですか?」
「うん! とっても美味しいね」
「……そうですか、それは良かったです」
笑顔でサフィニアを見つめながら、セザールは胸を痛めていた。
(何て気の毒な方なのだろう。リンゴ1個で、こんなに喜ぶなんて……)
エストマン公爵家の人々がどれ程、贅沢な料理を口にしているかセザールは良く知っている。
セザール自身も男爵家出身なので、それなりの手の込んだ料理を口にしているのだ。
それなのに母親がメイドだったと言う理由で、使用人だけが暮らす東棟に追いやられてしまったサフィニアが気の毒でならなかった。しかもまだ、たった6歳なのに。
そんな胸の内を知らず、サフィニアは美味しそうにリンゴをほおばり……ついに、全て食べきった。
「美味しかった~」
そこでセザールはもう一つリンゴをポケットから取り出した。
「サフィニア様、もう1個お召し上がりになりますか?」
「ううん、いらない。だって、それはセザールのリンゴでしょ?」
「まさか! 僕なら大丈夫です。これもサフィニア様のですよ?」
「だけど……セザールもお腹、空いているでしょ?」
サフィニアはモジモジしながら尋ねる。
「いいえ、僕なら大丈夫です。お昼は食べきれないほど、頂きましたから。それに夕食まで、まだまだ先ですよ。だから今食べることを僕は勧めます。誰か来る前にね」
「……いいの? もう一つ貰っても……」
「ええ、もちろんです」
「ありがとう!」
途端にサフィニアの顔に笑みが浮かぶ。
実はセザールには言わなかったが、リンゴ1個では足りなかったのだ。
サフィニアはセザールからリンゴを受け取ると、再び美味しそうに食べ始めた。
(明日からはサフィニア様の為に、何かおやつを用意してこよう)
リンゴをほおばるサフィニアを見つめながら、明日からどんなおやつを持参してこようか思案するのだった——
「人の気配は無いな……」
セザールはポケットからハンカチとリンゴを取り出すと、表面を綺麗に拭きとってサフィニアに差し出した。
「どうぞ、サフィニア様」
「……」
サフィニアはポカンとした顔でセザールを見上げる。
「……あ、もしかして皮を剥いて食べやすく切った方が良かったですか? 申し訳ございません。果物ナイフが今手元に無いもので……」
目を伏せて謝ると、サフィニアは首を振った。
「ううん、そうじゃないの。私、リンゴ貰っていいの?」
「え? 何故そう思うのですか?」
「だって、さっきのお兄ちゃんが言ってたじゃない。本当はおやつをあげられないって」
するとセザールは神妙な顔つきになる。
「何を言っておられるのですか? サフィニア様は公爵家の令嬢なのですよ? 本来であれば、このような場所にいる立場には無いのですよ?」
「だけど……私のママは、メイドだったんだよね? だからパパと一緒に暮せなかったんでしょう?」
じっと自分を見つめてくるサフィニアに、セザールは何と答えれば良いか分からなかった。
「と、とにかく今はリンゴを召し上がって下さい。誰かに見つかったら取り上げられてしまうかもしれませんから」
「うん」
サフィニアは頷くと、リンゴをかじった。
サクッ
リンゴを口に入れて噛みしめると、みずみずしい甘さと香りが口の中に広がる。
「美味しいですか?」
「うん! とっても美味しいね」
「……そうですか、それは良かったです」
笑顔でサフィニアを見つめながら、セザールは胸を痛めていた。
(何て気の毒な方なのだろう。リンゴ1個で、こんなに喜ぶなんて……)
エストマン公爵家の人々がどれ程、贅沢な料理を口にしているかセザールは良く知っている。
セザール自身も男爵家出身なので、それなりの手の込んだ料理を口にしているのだ。
それなのに母親がメイドだったと言う理由で、使用人だけが暮らす東棟に追いやられてしまったサフィニアが気の毒でならなかった。しかもまだ、たった6歳なのに。
そんな胸の内を知らず、サフィニアは美味しそうにリンゴをほおばり……ついに、全て食べきった。
「美味しかった~」
そこでセザールはもう一つリンゴをポケットから取り出した。
「サフィニア様、もう1個お召し上がりになりますか?」
「ううん、いらない。だって、それはセザールのリンゴでしょ?」
「まさか! 僕なら大丈夫です。これもサフィニア様のですよ?」
「だけど……セザールもお腹、空いているでしょ?」
サフィニアはモジモジしながら尋ねる。
「いいえ、僕なら大丈夫です。お昼は食べきれないほど、頂きましたから。それに夕食まで、まだまだ先ですよ。だから今食べることを僕は勧めます。誰か来る前にね」
「……いいの? もう一つ貰っても……」
「ええ、もちろんです」
「ありがとう!」
途端にサフィニアの顔に笑みが浮かぶ。
実はセザールには言わなかったが、リンゴ1個では足りなかったのだ。
サフィニアはセザールからリンゴを受け取ると、再び美味しそうに食べ始めた。
(明日からはサフィニア様の為に、何かおやつを用意してこよう)
リンゴをほおばるサフィニアを見つめながら、明日からどんなおやつを持参してこようか思案するのだった——



