お断りしたはずなのに、過保護なSPに溺愛されています

数十分後。
部屋の前で、小さな気配の変化があった。

ノックがされる。

「はい」

返事をすると、扉が開かれ、橘が現れた。

「交代となります。新しい担当者なので、ご紹介を」

「……どうぞ」

扉の向こうから現れたのは、先ほどの無表情な橘とは対照的な、明るい笑顔を浮かべた男性だった。
身なりはきっちりしているものの、どこか親しみやすい雰囲気がある。

「初めまして。警視庁警護課の河田です。よろしくお願いします!」

紗良は少し驚きながらも、軽く会釈を返した。

「はい、精一杯がんばらせてもらいます。何か気になることがあれば、何でも言ってくださいね!
あ、ただし“つきまとわないでください”っていうのは、ちょっと無理ですけど!」

「……言いそうになったんですかね、誰かが?」

思わず言い返すと、河田は「あはは」と声をあげて笑った。

「いやー、橘さんのことですよね? あの人、鉄壁ですから。気配も気配じゃないっていうか、まるで“柱”ですよね」

「柱……確かに」

思わず笑いがこぼれた。
橘に向ける笑いなんて、初めてだった気がする。

「僕はわりと喋っちゃう方なんで、うるさかったら遠慮なく言ってください。すぐ静かになりますから!」

「……ありがとうございます。少し、気が楽です」

そう口にしたあと、自分でもはっとした。
「気が楽」と感じたということは、橘の存在は、やはり——。

(……緊張してたんだ、私)

無意識にずっと、息を詰めていた気がした。

ふと横を見ると、橘が最後に一礼し、無言で部屋をあとにしていた。

河田の笑顔が柔らかく残る中、重たくも頼もしい「柱」のような橘の姿が、なぜか胸の奥にぽつんと残った。