まるで“見ていた人間”のような語り口に、紗良は思わず息をのむ。
自分がいたその場所、自分が走ったその空間が、第三者の言葉で、淡々と解説されていく。
「……現行犯で逮捕された男は、身元の分かる所持品を持っておらず、現在も黙秘を続けているということです」
“見なきゃよかった”。
そう思いながらも、手が勝手にスマートフォンを開いてしまう。
SNS。
予想はしていた、でもどこかで「まさか」が勝っていた。だから余計に心が冷えた。
"一ノ瀬の娘、親の身代わりとかマジかわいそうすぎて泣ける。"
"親のコネでS社の最年少課長らしい。楽して生きてきた分、少しくらい苦労させてやれよ。"
"娘は都内の高級マンションに親の金で住んでいるらしい。特定して晒そうぜ。"
スクロールする指が止まる。
どれも事実ではない。でも、それを一つずつ訂正してまわるほどの気力も、今の紗良にはなかった。
会社で認められるまでに、どれだけ理不尽な下積みをしてきたか。
家賃だって、アメリカの語学学校の学費だって、大学卒業以降は一切頼っていない。
それでも世間は、肩書きと名前だけを見て“決めつける”。
怒りも、悲しみも、通り越した。
代わりに、薄く冷たい諦めだけが胸に残る。
箸の動きが止まっていた。
口に運んでも、味がしない。
ご飯はどれだけ噛んでも砂のようで、スープの温かさもどこか遠く感じる。
ようやく3分の2ほど食べたところで、箸をそっと置いた。
ただでさえ静かな病室が、さらに冷たく感じた。
テレビはまだ何かを報じていたが、紗良はもう、それを見ようとも思わなかった。
自分がいたその場所、自分が走ったその空間が、第三者の言葉で、淡々と解説されていく。
「……現行犯で逮捕された男は、身元の分かる所持品を持っておらず、現在も黙秘を続けているということです」
“見なきゃよかった”。
そう思いながらも、手が勝手にスマートフォンを開いてしまう。
SNS。
予想はしていた、でもどこかで「まさか」が勝っていた。だから余計に心が冷えた。
"一ノ瀬の娘、親の身代わりとかマジかわいそうすぎて泣ける。"
"親のコネでS社の最年少課長らしい。楽して生きてきた分、少しくらい苦労させてやれよ。"
"娘は都内の高級マンションに親の金で住んでいるらしい。特定して晒そうぜ。"
スクロールする指が止まる。
どれも事実ではない。でも、それを一つずつ訂正してまわるほどの気力も、今の紗良にはなかった。
会社で認められるまでに、どれだけ理不尽な下積みをしてきたか。
家賃だって、アメリカの語学学校の学費だって、大学卒業以降は一切頼っていない。
それでも世間は、肩書きと名前だけを見て“決めつける”。
怒りも、悲しみも、通り越した。
代わりに、薄く冷たい諦めだけが胸に残る。
箸の動きが止まっていた。
口に運んでも、味がしない。
ご飯はどれだけ噛んでも砂のようで、スープの温かさもどこか遠く感じる。
ようやく3分の2ほど食べたところで、箸をそっと置いた。
ただでさえ静かな病室が、さらに冷たく感じた。
テレビはまだ何かを報じていたが、紗良はもう、それを見ようとも思わなかった。



