お断りしたはずなのに、過保護なSPに溺愛されています

いつの間にか眠っていたようで、次に目を覚ましたとき、病室には誰の姿もなかった。
うっすらとした照明のもとで、天井の模様がぼんやりと浮かび上がる。
しばらくぼーっとしてから、ふと、お手洗いに行きたくなったことに気づく。

静かにベッドの縁に腰をかけ、ゆっくりと立ち上がる。
足元に目をやると、さっきまでなかったはずの自分のフラットシューズが、すでに汚れも落とされて、きちんと並べられていた。

(至れり尽くせり、だな……)

そう思いながら靴に足を入れ、病室の扉にそっと手をかける。
久しぶりに「自分の意思で扉を開ける」という行動に、なんとなく緊張しつつ、おっかなびっくりドアを開けた。

ドアがわずかに開いたその隙間から、目が合ったのは河田だった。

彼は即座にこちらへと歩み寄り、紗良が部屋から一歩出るよりも先に、小声で尋ねた。
「どうされました?」

「お手洗いに」と答えると、河田はすぐに「看護師が付き添いますので、お待ちください」と、やんわりと部屋の中へ戻すように誘導した。

戸惑いながらも部屋に引き返す。
(そっか、こういうのも“警護”なんだな)と、どこかで納得しかける自分がいた。

やがて看護師がやってきて、「行きましょうか」と声をかけてくれた。
そのままトイレへ向かうと、河田が一定の距離を保ちながら静かにあとをついてくる。
まるでVIPみたいだ、と内心苦笑する。

女性用トイレの前に着くと、看護師が中に誰もいないことを確認。
それから一歩さがり、無言で河田に視線を送る。

河田は一瞬のためらいも見せず、当然のように女性用トイレに入り、個室すべてを点検した。
(ああ、すごい警戒心……)
それを見つめながら、紗良は思わず眉を上げた。

トイレに行くだけでも、こんなにいろいろな手順が必要なんだ。
けれど不思議と、煩わしさよりも、慣れ始めている自分のほうが気になった。
少しずつ、この“特殊な日常”に体が順応している。
(これが“守られる”ってことなのかな)

個室の中、小さなすりガラスの窓からちらっと外を見ると、思った通り、エントランス前には数台の報道車両。
黒や白の車体に貼られた“報道”の文字が目についた。

(やっぱり……)

自分が「大臣の娘」として狙われたこと。
今、自分の身に起きていることが、世間にとっては“ニュース”なのだという現実が、冷たい窓越しに突きつけられた気がした。