お断りしたはずなのに、過保護なSPに溺愛されています

医師が再び病室に現れ、念のための診察を始めた。
聴診器が胸に当たるたびに、紗良は無意識に呼吸を浅くする。けれど、先ほどよりは少し落ち着いている自分に気づいた。

診察を終えると、医師が背を向ける橘の方を見て言った。
「今日は入院……されたほうが良いんですよね?」

その言葉に、紗良は自然と橘に目を向ける。
橘はゆっくりと、けれどはっきりと大きくうなずいていた。

――やっぱりそうなんだ。

医師が橘に確認するということは、これは医療的な判断だけじゃなくて、警護上の必要性を含んだ判断なのだとわかった。

その瞬間、紗良の頭の中には妙に現実的な考えがよぎる。
(これ、保険きかない入院になりそう……)
高額な個室、特殊な配慮、たぶん“あちら”持ちになるのだろうけど、思わずそんな庶民的な心配が浮かんでしまう。

本当は――帰りたかった。
病院のにおいも、白くて明るすぎる光も、ただでさえ具合が悪い体には負担でしかない。
けれど、そんなわがままを言える状況じゃないことは、誰よりも自分がわかっていた。

今も遠くでサイレンの音が断続的に鳴っている。
病院の外では警察車両が出入りし、マスコミも押し寄せてきているに違いない。

(“一ノ瀬大臣の娘、襲撃される”……そんな見出しがテレビを流れるのかな)
想像して、思わず眉をひそめた。

それでも橘の存在が、どこかで紗良を現実につなぎとめてくれている。
この人がいるなら、きっと今夜は乗り越えられる――
そんな気がしていた。