お断りしたはずなのに、過保護なSPに溺愛されています

橘の腕にそっと体を預けたまま、紗良は何も言わずにその胸元に顔を寄せる。
前を歩く看護師のほかに、
後ろから誰かがついてくる気配がする。

歩くたび、橘の体温と匂いがふわりと感じられ、
それがあまりに安心感を誘って、
凍りついていたはずの心の奥が、
じんわりと解けていくような気がした。

エレベーターに乗り込み、ドアが静かに閉まると、
小さな空間に、わずかな静寂が訪れる。
不思議とその静けさが心地よく、
橘の腕の中で胸の高鳴りと、
安堵が混ざったような不思議な感覚を味わっていた。

やがて病室に戻ると、橘は紗良を慎重にベッドへと座らせる。
すぐに看護師がやって来て、
汚れてしまった紗良の片足をぬるま湯の入った洗面器へと優しく浸し、丁寧に拭いはじめる。

その手つきの温かさに、紗良は思わず
「そんなことまで、本当にすみません……」と申し訳なさそうに言った。

看護師は笑みを浮かべ、
「いいんですよ。大変な時は、甘えてください」と優しく返してくれる。
その言葉に、また胸がじんと熱くなった。

ふと顔を上げて周囲を見回すと、橘がそばで変わらず立ち、扉付近には河田の姿があった。
警戒を緩めていないその背筋が、何よりの安心材料だった。

「旗野さんはご無事ですか……?」
自分でも驚くほど自然にその言葉が口をついて出た。

橘はすぐに答えた。「旗野は無事です」
その返事に、紗良はほっと胸を撫でおろす。

だが橘の目がふと、何かを言いかけるような、そんな色を帯びる。
この状況で他人の心配をする余裕があるのか、
とでも言いたげな、そんな目だった。
けれど何も言わず、紗良のそばに立ち続けるその姿が、なによりもの支えだった。