お断りしたはずなのに、過保護なSPに溺愛されています

ビルの地下駐車場に車が滑り込むと、橘は素早く車を降り、紗良のドアを開けた。
自然すぎて、いつの間にか「やってもらうのが当然」になってきている自分に、少しだけ嫌気がさす。

——慣れたくないのに。

「こちらからどうぞ」

エレベーター前でも、橘は一歩前に出て警戒する。
その姿に、後ろから乗ってきた社員たちの目線がちらちらと集まった。

そして、オフィスフロアに着くと、ざわめきはさらに色を増す。

紗良の姿を見た秘書の坂口が、笑顔を作りながら駆け寄ってきた。

「おはようございます、一ノ瀬さん。……あの、こちらの方は?」

坂口の目線が、隣に立つ橘に注がれる。
同時に、周囲の社員たちも露骨にこちらに注意を向けていた。

その空気を察したのか、橘が一歩前に出て、きちんとした姿勢で頭を下げる。

「警視庁警護課所属の橘です。
諸事情により、本日より一ノ瀬さんの警護を担当しております。
お仕事のご迷惑にならぬよう配慮いたしますので、どうかお気になさらず」

真っ直ぐな声と、抑えた態度。
場がぴたりと静まり返った。

——お気になさらず、って。いや、気になるでしょ。
社内に警察の人が立ってるのに、“お気になさらず”で済む空気じゃない。

心の中で思い切り突っ込みながらも、紗良は努めて自然に頷く。

「必要なだけだから。業務の邪魔はしないはず」

言葉を添えて、あとはさっさと執務室へ向かった。

後ろからも前からも視線が刺さる。
でも、慣れるしかない——今は。


デスクに着くと、パソコンのログイン画面がぼんやりと光っていた。
ふと背後に気配を感じて振り返ると、少し離れたところに橘が立っていた。
きっちりと手を組み、視線は常に周囲を見渡している。

この先、どんな日々になるのか、まだ想像もつかない。

ただひとつ確かなのは——
橘の存在が、日常の真ん中に入り込んでしまったということだった。