お断りしたはずなのに、過保護なSPに溺愛されています

目が覚めたとき、室内の空気が妙に重く感じた。
体は朝よりさらに鉛のように重く、喉は焼けるように痛い。息をするたびに熱を含んだ空気が肺に張りついてくるようで、咳も出始めていた。

(きつ……)

壁の時計を見ると、まもなく正午になろうとしていた。
水分だけでも取ろうと、キッチンへふらつきながら向かい、コップに水を注いで飲む。

そのとき、玄関から「コン、コン」と控えめなノックの音が聞こえた。
インターフォン越しに画面を確認すると、橘の姿があった。

玄関の扉を開けると、橘は紗良の顔を見るなり眉をひそめ、明らかにその様子に何かを察したようだった。

「入室してもよろしいですか?」

反射的に、紗良はうなずいていた。

ソファに座ると、橘も向かいに腰を落とし、目線を合わせるようにして静かに言った。

「……病院に行かれなくても大丈夫ですか?」

言葉を選んでいるような、それでも遠慮のない率直さに、紗良は少しだけ罪悪感を覚えながら答えた。

「本当は行った方がいいのかもしれないけど……橘さんたちに迷惑がかかるかなって、思って……」

その言葉に、橘の表情が一瞬だけ柔らかく崩れた。

「それなら……私が診ましょうか?」

「えっ……!? ど、ど、どういうことですか?」

思わず声が裏返った。

橘はどこか悪戯っぽく口元を緩めながら答えた。

「僕は、もともと医師をしていました。救急医だった時期もあります。だから、最低限の診察や、必要であれば簡単な処方もできますよ」

紗良は、ぽかんと目をぱちくりと瞬かせた。

(まさか……医師からSPになる人なんて、本当にいるんだ)

気恥ずかしさと驚きと、何よりその懐の深さに、胸の奥がじんわりと温かくなっていた。
だが同時に、(本当にこの人に診てもらうなんて……恥ずかしすぎる)という思いも湧き上がる。

彼はただ淡々と、自分の職責を果たそうとしているだけ――それは分かっているのに。