お断りしたはずなのに、過保護なSPに溺愛されています

その日の夕方、会議を終えた頃だった。
紗良は喉の違和感と微かな寒気に気づいた。
会議室を出てすぐに、同行していた松浦がすぐに顔色の変化に気づく。

「一ノ瀬さん、大丈夫ですか? ちょっと熱があるように見えます」

紗良は苦笑いを浮かべながら、
「少し喉が痛くて……でも大丈夫です」と答えたが、松浦は無言で頷くだけで、それ以上は聞かなかった。その足で警護チームへ情報を共有する。

夜の警護担当は河田に引き継がれた。

その晩、部屋はいつも通り整っていたが、紗良の身体はそうではなかった。
熱はじわじわと上がっていた。

体が火照り、喉の奥が焼けつくように痛む。
それでも紗良は、ベッドに横になったまま、
声を出すことも、水を頼むこともできなかった。

河田は廊下の先、扉の向こうにいる。
もしお願いすれば、きっとすぐに飛んで来てくれるのだろう。

けれど、なぜかその「もし」を言葉にできなかった。
彼は明るく、フレンドリーで、親しみやすいはずなのに――。

(どうして……橘さんのときは、あんなにすぐ頼ろうと思えたんだろう)

布団の中、熱で霞む思考の中でそんなことを考えると、思わず小さく笑ってしまった。

(変な話……初めは、あの無愛想な人より河田さんの方がずっと話しやすいと思ってたのに)

――なのに、今の私は、あの人に甘えたいと思っている。
その事実が少しだけ可笑しくて、そして、ほんの少し切なかった。

喉の奥から小さな咳が漏れた。
けれどその夜、紗良は誰も呼ばず、ただ静かに、朝が来るのをじっと待っていた。