紗良は、部屋の隅で微動だにせず立っている橘の姿を横目に、静かにバスルームへ向かった。
シャワーの湯が頭上から流れ落ちると、ようやく自分の意識が体に戻ってきたような気がした。
いつもより少し丁寧に髪を洗い、タオルドライの後にドライヤーで整える。寝室へ戻り、扉を一度そっと閉めると、落ち着いた服に着替えた。
――もう、見られたくないなんて言ってられない。
これが、私の「日常」なのだ。
不安や恐怖をそのまま表に出すのは簡単だ。でもそれを見て、安心するのは誰か?それを好む人が、きっとどこかにいる。
だからこそ、紗良は毅然とした態度で、いつも通りの生活を装った。これ以上、自分の心まで侵されるわけにはいかなかった。
ダイニングでトーストを焼き、昨日のスープを温め直して、ささやかな朝食を整える。
湯気の立つコーヒーに口をつけて、香りを一口含んだそのときだった。
背後から、橘の変わらぬ声が響く。
「他の担当者と情報共有をして参ります。玄関前におりますので、何かございましたらすぐにお知らせください」
その言葉に、紗良はうなずきながら、そっと目線だけを橘に向けた。
「……はい。ありがとう」
橘は静かに一礼し、部屋を出て行った。
ドアが閉まる音がして、部屋に再び静寂が訪れる。
だけど、昨夜のような不気味な静けさではなかった。わずかに、守られているという実感が残る空気。
紗良は小さく息を吐き、冷めないうちにコーヒーにもう一口、口をつけた。
シャワーの湯が頭上から流れ落ちると、ようやく自分の意識が体に戻ってきたような気がした。
いつもより少し丁寧に髪を洗い、タオルドライの後にドライヤーで整える。寝室へ戻り、扉を一度そっと閉めると、落ち着いた服に着替えた。
――もう、見られたくないなんて言ってられない。
これが、私の「日常」なのだ。
不安や恐怖をそのまま表に出すのは簡単だ。でもそれを見て、安心するのは誰か?それを好む人が、きっとどこかにいる。
だからこそ、紗良は毅然とした態度で、いつも通りの生活を装った。これ以上、自分の心まで侵されるわけにはいかなかった。
ダイニングでトーストを焼き、昨日のスープを温め直して、ささやかな朝食を整える。
湯気の立つコーヒーに口をつけて、香りを一口含んだそのときだった。
背後から、橘の変わらぬ声が響く。
「他の担当者と情報共有をして参ります。玄関前におりますので、何かございましたらすぐにお知らせください」
その言葉に、紗良はうなずきながら、そっと目線だけを橘に向けた。
「……はい。ありがとう」
橘は静かに一礼し、部屋を出て行った。
ドアが閉まる音がして、部屋に再び静寂が訪れる。
だけど、昨夜のような不気味な静けさではなかった。わずかに、守られているという実感が残る空気。
紗良は小さく息を吐き、冷めないうちにコーヒーにもう一口、口をつけた。



