お断りしたはずなのに、過保護なSPに溺愛されています

紗良は、枕元に置かれていたスマホに手を伸ばした。画面を点けると、通知がいくつも溜まっていた。

SNSのDM欄には、またしても罵詈雑言。罵倒や中傷の言葉が、まるでどこかでコピーペーストされたかのように続いている。

けれど、電話の着信はない。それだけでも、少しだけ心が救われたような気がした。

それでも、まだ頭はぼんやりとしていた。
浅い眠りのせいか、あるいは昨夜の緊張が残っているせいか。
布団をゆっくりとめくり、ため息をひとつついてから、ベッドを離れる。
重たい体を引きずるようにして寝室の鏡の前に立った。

鏡に映った自分の顔を見て、思わず目を見開く。

「……ひど。」

目の下にはしっかりとクマができ、目元は腫れぼったい。髪も寝癖で少し跳ねている。
鏡の向こうにいるのは、緊張と不安と疲労が渦巻いた昨夜の名残をしっかり抱えた「一ノ瀬紗良」だった。

――こんな顔、誰にも見られたくないな。

寝室の扉は開け放たれている。玄関の方へ視線を送ると、橘が立っていた。
背を伸ばし、相変わらずの姿勢で持ち場を守っているその背中は、微動だにしない。
紗良がどんな姿であろうと、それを見て取り乱したり、揶揄したりするような人ではないことはわかっていたけれど――

(……見てない、よね)

そっと息を吐きながら、紗良は鏡の前から目を逸らした。朝は、始まったばかりだ。