お断りしたはずなのに、過保護なSPに溺愛されています

帰宅の車が紗良の家の前に静かに停まる。ドアが開いて、涼しい風と共に玄関へと向かうと──そこには、これまで見たことのない人物が立っていた。

スーツを隙なく着こなし、胸元には橘と同じ色のバッジ。
背筋を伸ばし、まるで石像のように佇むその姿からは、場数を踏んだ空気が漂っている。
髪に少し白いものが混じり、年齢はおそらく四十代前半。

橘がその隣に歩み寄り、紗良のほうを向く。

「これより交代となります。旗野(はたの)です。」

紗良は反射的に気を引き締めた。ついさっきまで橘と交わしていた、あのささやかなぬくもりを一旦胸の奥にしまい込む。

「よろしくお願いします」

深く礼をするその姿は、まるで別人のようにきちんとしていた。
明らかに年上の相手に対して、リラックスした態度など取れるはずもない。

旗野は無表情ながらも一歩前に出て、淡々と、

「よろしくお願いいたします。安全確保に努めます」

とだけ言った。

そのやり取りを見ていた橘は、ほんの一瞬だけ表情を崩す。
ほっとしたような──けれどどこか、「素直かよ」とでも言いたげな、口に出せない感情がにじんだ顔。

(ちゃんと切り替えられるんだな)

そんな心の声が、眉間の緊張を少しだけ緩めていた。