お断りしたはずなのに、過保護なSPに溺愛されています

終業時間が迫った頃、執務室の隅で書類をまとめながら、紗良はふと思い出したように顔を上げた。

「……橘さん」

橘はすぐそばに立っていた。声をかけられると小さく頷く。

「はい」

「今日、私が昼寝してたこと──誰にも言わないでくれる?」

少し間を置いてから、橘は落ち着いた声で応じた。

「職務上、必要性がない限りは言及しません」

「……それって、絶対言わないとは限らないってことでしょ」

紗良はふくれっ面になって、ぷいっと目線を逸らす。橘は表情こそ変えなかったが、わずかに口元を緩めたようにも見えた。

そのまま定時となり、二人はオフィスを後にした。

夕暮れが沈みかけた空を車窓から眺めながら、紗良はようやく一息つく。車内には橘と自分、運転を担う松浦が前に座っている。

しばらくして、橘がふと後部座席の紗良に目をやった。

「……今朝よりも、顔色が良くなったように思います。安心しました」

その一言は、穏やかに、でもどこか丁寧に差し出されたものだった。

紗良は驚いたように少しだけ目を見開き、それからゆっくりと表情を和らげた。

「……ありがとうございます」

車の中は静かだったが、その静けさは決して冷たいものではなかった。

橘の隣にいて、初めて知る感覚だった。
守られるというのは、ただ壁になってもらうことじゃない。
自分の弱さを見せても、引かれず、支えられていると感じられること。
不安にそっと寄り添うこと。

(……なんだろう、この感じ)

まだ言葉にはできないけれど、橘の存在が、ただの“SP”ではなくなりつつあることを、紗良は感じていた。