お断りしたはずなのに、過保護なSPに溺愛されています

岡島が出て行った後、部屋にふたたび静けさが戻る。
紗良はまだ手元の書類に目を落としつつも、なんとなく、さっきの言葉が気になっていた。

「……さっきの、“かっこいい”って……」

ぽつりと呟くと、すぐに後悔の波が押し寄せてきた。

(あああ、なんで言っちゃったんだろう、自然に流せばよかったのに)

顔を上げると、橘がまっすぐにこちらを見ていた。
紗良は思わず視線を逸らし、わざとらしく書類に目を戻す。

「そ、そういう意味じゃなくて! 岡島さんが言ってたのを……そのまま、ね?」

沈黙。
橘はわずかに眉を動かしたが、口元は相変わらず無表情を保っている。

「……そうですか」

それだけを言って、橘はゆっくりと執務室のドアの方へ向かおうとする。

「ちょ、ちょっと! なんでそういう反応なの、ちょっとくらい……なんか言ってくれてもいいじゃないですか……!」

思わず語気を強めた紗良に、橘はふと立ち止まり、肩越しにひとこと。

「言ったら、図に乗るでしょう?」

「は……!?」

「寝起きで、書類に名前書いてるかと思えば今度は“かっこいい”って。仮眠許可してよかったか、少し考え直す必要があるかもしれませんね」

「う、うわぁ……それ絶対根に持ってる言い方だ……!」

橘はそのまま出て行ったが、最後にちらりとこちらを振り返った。
その一瞬の、ほんのわずかな表情の崩れが、まるで“冗談ですよ”とでも言いたげに見えた。

紗良はひとり、椅子の背にうつ伏すようにして、そっと机を叩いた。

「かっこいいって言ったの、私じゃないし……ほんと、なんでああなるの……」

でも、少しだけ頬が熱かった。