お断りしたはずなのに、過保護なSPに溺愛されています

「……一ノ瀬さん、起きてください。来客です」

低く抑えた橘の声が、紗良の耳に落ちた。軽く肩を叩かれ、紗良はぼんやりと顔を上げる。
そのタイミングでノックの音が聞こえた。

「……どうぞ」

寝起きの声をできるだけ平静に整え、返事をする。
扉が静かに開き、若い女性が書類を抱えて一歩、二歩と遠慮がちに入ってくる。

「し、失礼します……決済をお願いしたくて……」

岡島結菜。紗良の部下で、真面目で少し気が弱いが丁寧な仕事をする女性だ。
その遠慮がちな様子は明らかに、部屋の奥に立つ橘の存在を意識している。

「あ……ごめんね。橘さんがいるせいで威圧感すごいでしょ。本当に申し訳ない、私の私的な事情で……」

紗良が申し訳なさそうにそう言うと、岡島はふっと笑って首を横に振った。

「いえいえ、むしろ……“かっこいい警察の方が毎日来てる”って、オフィスでは話題になってます」

「……かっこいい?」

ぽつりと呟いた自分の言葉に、紗良は自分でも驚いて瞬きを繰り返す。
橘と岡島の顔を交互に見ながら、頭の中で寝ぼけた感覚を必死に整える。

「あっ……そっか、そうだよね。みんなが怖がってないなら、何よりだわ……」

気を取り直し、机に置かれた書類を確認していく。
サインを済ませながら、ふと岡島に視線をやる。

「岡島さん、いつもありがとうね。頼りにしてるわ」

その一言に、岡島は小さく目を見開いた後、ふわっと顔を赤らめる。
紗良と橘を一度ずつ見て、恥ずかしそうに一礼した。

「し、失礼します……!」

小走りで出ていく岡島を見送りながら、紗良は少し気まずそうに橘に目をやった。
橘は相変わらず無表情だったが、どこか目元だけが微かに和らいでいた──ような気がした。