お断りしたはずなのに、過保護なSPに溺愛されています

「これなんですけど…」
紗良は手元の資料を適当に開いて、ほんの少しだけ本当に気になっていた点を指さした。

「この契約書の数字、ちょっと桁の感覚がおかしくて。たとえば、この予算案の『概算』って……これってどこまで確定してる数字なんでしょう?」

橘は一歩近づいて、資料を覗き込む。
「たぶん、それは——」と説明しかけたが、彼の視線がふと、資料ではなく紗良の顔に移った。

紗良は誤魔化すように、笑みを浮かべた。
「なんだか、こういうの、見てるだけで眠くなっちゃいますよね」

その瞬間、橘の眉がわずかに動いた。
「……なるほど。確認ってそういう意味ですか」

「え?」

「眠気覚ましに私を呼んだんですね」

「えっ……ち、ちがいますよ? ちゃんと確認も——」

「確認“も”じゃなくて、“それが目的”ですよね」

橘は眉間に皺を寄せたまま、じっと紗良を見た。
その視線が鋭いだけに、紗良はつい目をそらす。

「……あの、ちょっとだけ、話し相手がいたら集中できるかなって思っただけで……」

小さな声でぽつりとそう言うと、橘は少しだけため息をついて、腕を組んだ。
「私は警護対象者の暇つぶし要員ではありません」

「ご、ごめんなさい……!」

ぺこりと頭を下げる紗良に、橘はほんの一瞬だけ沈黙したあと、
「……でも、危機感が薄れてきたってことなら、それは悪くない兆候かもしれません」と言った。

「え?」

「一人で怯えて、閉じこもるよりは、ずっといい」

紗良は目を見開いたまま、しばらく黙っていたが、やがて微笑んで小さく頷いた。

「……じゃあ、眠気が限界にきたら、また“確認”お願いするかもしれません」

橘は無表情のまま、「そのときはちゃんと内容を用意しておいてください」と返した。

でも、その声はどこか、ほんのわずかだけ柔らかかった。