お断りしたはずなのに、過保護なSPに溺愛されています

昼を告げるオルゴールの音が、どこかゆったりとした空気を執務室に運んできた。

紗良は軽く伸びをして、大きくひとつあくびを漏らす。
「あー……」と、思わず声が出たのは気が緩んでいる証拠だろう。
バッグに手を伸ばしかけたそのとき──

「失礼します」

ノックと共に、扉が少しだけ開いた。
橘が、いつものように無駄のない動作で顔を覗かせた。

「昼食はどうされますか」

その言葉に、紗良はわずかに目を見開いた。

(以前は、そんなこと一度も聞いてくれなかったのに)

胸の奥がほんのり温まる。

「今日は、お弁当を持ってきたんです」

橘は軽くうなずくと、「わかりました」とだけ答え、扉を静かに閉じた。
変わらない態度。
でも、どこか少し違う。
扉の向こうに彼がいる。
それだけで、心のどこかが落ち着いている。

(初めのころは、少しでも遠ざけたくて、「部屋の外に出ててください」なんて言ったのに。
今は──むしろ、話し相手になってほしいくらい)

もちろん、そんなことは言えないけれど。

すりガラス越しに感じる橘の気配に、心を預けるようにして、
紗良はふたを開けた弁当のひと口目を頬張る。

──今日は、ちゃんと味がする。
ほんの少しだけ、日常に戻れたような、そんな気がした。