その夜、紗良はずっと眠れなかった。
布団の中、天井を見つめながら、浅い眠りに落ちては、すぐに目が覚める。
時計の針が一時間ごとに進む音だけが、部屋の静けさを刻んでいた。
──なぜこんなに心がざわつくのか。
怖いのか。
不安なのか。
それとも、ただ、悲しいのか。
感情の名前すらもう曖昧だった。
寝返りを打って横を向く。
窓の外はまだ真っ暗で、橘がいるであろう玄関の方へと意識が向いた。
彼の眉間の皺、無口な態度、いつも冷静で、何も揺るがないようなその背中──
でも、どこかで見透かされているような安心感もあった。
(もし……もしも、お父さんが本当に悪いことをしていたのなら)
紗良は唇を噛んだ。
(こんなふうに、傷つかなくて済んだのに)
潔白だからこそ、それが暴かれることのない清さだからこそ、こんなにも無力に感じる。
嘘が真実にすり替わり、悪意の中に引きずり込まれて、何もしていない自分が、何も守れない自分が、ただ壊されていく。
涙は出なかった。
もう出尽くしたのかもしれない。
ただ心が、静かに、どこかへ沈んでいくのを感じていた。
──そんな紗良の眠れぬ夜の静寂を、誰にも気づかれることはなかった。
布団の中、天井を見つめながら、浅い眠りに落ちては、すぐに目が覚める。
時計の針が一時間ごとに進む音だけが、部屋の静けさを刻んでいた。
──なぜこんなに心がざわつくのか。
怖いのか。
不安なのか。
それとも、ただ、悲しいのか。
感情の名前すらもう曖昧だった。
寝返りを打って横を向く。
窓の外はまだ真っ暗で、橘がいるであろう玄関の方へと意識が向いた。
彼の眉間の皺、無口な態度、いつも冷静で、何も揺るがないようなその背中──
でも、どこかで見透かされているような安心感もあった。
(もし……もしも、お父さんが本当に悪いことをしていたのなら)
紗良は唇を噛んだ。
(こんなふうに、傷つかなくて済んだのに)
潔白だからこそ、それが暴かれることのない清さだからこそ、こんなにも無力に感じる。
嘘が真実にすり替わり、悪意の中に引きずり込まれて、何もしていない自分が、何も守れない自分が、ただ壊されていく。
涙は出なかった。
もう出尽くしたのかもしれない。
ただ心が、静かに、どこかへ沈んでいくのを感じていた。
──そんな紗良の眠れぬ夜の静寂を、誰にも気づかれることはなかった。



