お断りしたはずなのに、過保護なSPに溺愛されています

夕暮れが近づくころ、マンションの前に黒塗りの車が停まり、松浦が先に降りた。後部座席のドアを開け、紗良が小さく「ただいま」とつぶやいて降りると、橘が待機するエントランスに視線が向けられる。

松浦は、橘に近づき、目配せしながら小声で囁いた。

「よろしくね。あまり怖い顔、しすぎないでね」

橘は小さく頷いたものの、その眉間の皺は消えそうで消えなかった。
だが、紗良がこちらへ歩いてくると、いつもと違う動きがあった。

「お帰りなさい」

橘が、静かにそう言ったのだ。

紗良は少し目を見開き、立ち止まる。
まるで、聞き間違いかのように。

「……た、ただいま」

返事をしながら、彼の表情を観察した。
やはり厳つい表情には変わりないが、どこか、先ほどよりも柔らかさがあるように感じた。

「少しでも落ち着けるよう、今日はいつもより離れて控えます。何かあれば、すぐ呼んでください」

「……はい」

不思議な気持ちだった。
いつも“張り詰めた空気”しか漂わなかったのに、今日はほんの少し、呼吸がしやすい。

エレベーターの扉が閉まる直前、橘がふと手元を見て言った。

「夕食、まだでしたら、近くで軽食を買ってきますが、何かご希望はありますか?」

扉が閉まる寸前のその一言に、紗良は思わず笑ってしまいそうになる。

「……なんでもいいです。お任せします」

橘の小さな変化が、ほんの少しだけ、紗良の心を和らげていった。