お断りしたはずなのに、過保護なSPに溺愛されています

会議はその後、大きな混乱もなく再開され、無事に結論を迎えた。
紗良は一息つきながら、緊張が解けたように見える部下たちに目を向けた。

「ごめんね、緊張させてしまって」
軽く笑ってそう言うと、部下たちはほっとしたように笑い返して会議室を後にした。
それを見送ってから、紗良もゆっくりと会議室を出る。

廊下で待機していた松浦の表情は、朝よりもわずかに鋭さを増しているように見えた。
やはり一度脅威が起きると、警護側の緊張感は違うのだろう。

執務室へ戻ると、ようやく自分の空気が戻ってきたような安心感があった。
紗良は自分用のカップにコーヒーを淹れ、デスクに腰を下ろす。
その香りに包まれながら、深く息をついたとき、松浦がそっと声をかけてきた。

「驚かれましたよね」

紗良はコーヒーを一口飲んでから、頷いた。

「はい。でも……松浦さんと橘さんがいてくれたので、心強かったですよ」

そう言うと、松浦はふっと小さく笑みを浮かべた。
けれどその視線は、部屋の外へと向いていた。

「……橘の警護、いかがですか?」

突然の問いに、紗良は少しだけ口角を上げて言った。

「いつも怖い顔をしていて、なんだか……こっちまで監視されてる気分です」

「やっぱりか」
松浦は苦笑しながら頷いた。

「橘はね、ずっと総理大臣の要人警護についていたんですよ。
この頃、要人襲撃事件とか多いじゃないですか?
だから、人一倍――いや、三倍くらい緊張してるんですよ、いつも」

紗良は目を丸くして、驚いたように眉を上げた。

「……そんな経歴の人が。
なのに、私みたいな……よくわからない娘の警護なんて。
やりがい、ないんじゃないですかね」
少しだけ自虐っぽく笑った。

けれど、松浦はすぐに否定するように言った。

「警護にはもちろんリスクの管理はあるけど、やりがいは――誰を守ろうと同じですよ。
相手が誰であれ、“無事であること”には、変わらない価値がありますから」

その言葉に、紗良の胸の奥がじんわりと温かくなる。

(……ああ、そうか。私、久しぶりに……ちゃんと誰かと、話したかもしれない)

当たり前のようで、ずっとなかった“血の通った会話”。
それがこんなに心に沁みるなんて思いもしなかった。