お断りしたはずなのに、過保護なSPに溺愛されています

男が警備員に両腕を掴まれ、もがくようにして会社の外へ引きずり出されていくと、間もなく遠くからサイレンの音が近づいてきた。

社員たちの間に安堵の空気が流れる。ざわついていたエントランスも、次第に静けさを取り戻しつつあった。

しかし――
松浦の表情は、まだ緊張を解いていなかった。軽口ひとつ叩かない。視線は常にエントランスに向けられ、眉間には皺が寄っている。

と、その時だった。
ガラス越しに、橘が建物の外から駆けてくる姿が見えた。
目線は常に周囲を警戒していて、連行されていく男には一瞥くれただけだった。

こちらの安全を確認するように視線を巡らせると、橘は手で鋭く合図を送った。
それを受けて、松浦が会議室の扉を静かに開く。

走ってきたはずの橘だったが、息はまったく乱れていなかった。
スーツの袖から覗く腕には薄く汗が滲んでいたが、その顔はあくまで冷静で、まるで何もなかったかのように静かだった。

「状況は?」と、橘が松浦に小声で問う。

「中傷的な言動。身元確認中。対象者には直接的な接触なし」

「了解。私が執務室までの導線を巡回します。合図があるまでここで待機を」

「了解です」

短いやりとりのあと、橘は再び扉を開け、会議室を後にした。
足音ひとつ立てずに消えていくその背中は、紗良の目にはやけに大きく、頼もしく見えた。

(……あんな風に動く人なんだ)

ほんのわずかに、心の中で何かが変わる音がした気がした。