お断りしたはずなのに、過保護なSPに溺愛されています

賑わいを見せるサマーリーフ水辺公園の散策路を、紗良と航太はゆったりと歩いていた。
蝉の声が遠くで響き、涼やかな川風が頬を撫でる。

「ここ、やっぱり気持ちいいね」
「うん。都会の真ん中とは思えないくらい」

ふと、遠くの方から拡声器を通した男性の声が聞こえてきた。
熱のこもった語調。
どこかで聞いたことのある響き。
紗良と航太は同時に立ち止まり、顔を見合わせた。

「……今のって」
「……うん、たぶん」

導かれるように声の方へ歩を進めると、そこには選挙カーと人だかり。

その上で、堂々と演説していたのは――一ノ瀬岳だった。
姿勢正しく、若い後輩議員を引き立てるように語るその声は、聴衆の視線を引きつけて離さない。

航太がぼそりと呟いた。
「もう少しで衆院選か……。あのタイミングで会見を開いたのは、こういう狙いだったんだな」
「え……ああ……」

少し遅れて、紗良も気づく。
スキャンダルを最小限に抑え、なおかつ政治家としての立場を守り抜く――父は、まさに政治家としての手腕を見せたのだ。
「やっぱり……お父さんって、生粋の政治家なんだね……」
自分の中にあるわだかまりと、どこかで認めたくなかった“尊敬”が、ふいに交錯する。

そのとき――。

演説の締めの言葉として、岳はこう言った。

「皆さま、希望ある未来を、一緒に築いていきましょう。……今、大切な人と過ごせる時間があるなら、それをどうか大切にしてください。――私も、そうしていますから」

ほんの一瞬だけ、選挙カーの上から紗良たちの方へ視線が投げられた気がした。
その眼差しは、いつか見たことのある父のそれで、どこか静かで、優しかった。

「……今のって……」
「たぶん、俺たちに向けた言葉だな」
航太が肩をすくめると、紗良は小さくうなずき、照れたように笑った。

ふたりはそっと選挙カーに背を向け、再び歩き出す。
並んだ影が、夏の陽の中に伸びていた。