お断りしたはずなのに、過保護なSPに溺愛されています

玄関の扉が静かに閉まる音がした。
紗良はしばらくその場に立ち尽くしていた。

手のひらの中にある小さなGPS。
冷たくて、無機質で、でもそれを差し出した人の手の温度だけが、妙に指先に残っていた。

(信頼されていれば……か)

さっきの言葉が、何度も頭の中で反芻される。
冷静な声だったのに、不思議と棘はなくて、むしろ胸の奥をやんわり締めつけてくる。

リビングに戻り、ソファに座り込んだ。
テーブルにGPSを置いて、その隣にスマホも置いた。

画面は消えているのに、あのDMの言葉が、まるで焼き付いたみたいに思い出される。

(誰にも見せたくなかった。怖いって思ってる自分を知られたくなかった)

でも、それはもう河田に見せたし、橘にも、きっと全部は見抜かれていた。

さっきの「大丈夫ですか」という言葉が、ふと蘇る。

任務の一環かもしれない。そう思っていた。
でも今夜だけは、あの言葉が、ひとりの人間としての気遣いだったように思えてならなかった。

(どうして、あんな目で見られたら……)

胸の奥がまたきゅっとなる。
少しだけ、ほんの少しだけ、橘に「味方になってほしい」と思った自分がいた。

そう思った途端に、涙がまたにじんだ。

声を出すこともなく、ただ静かに、頬をつたっていく。
今夜の涙は、少しだけ温かかった。

部屋の時計が、静かに秒を刻む。

紗良はふと、GPSを手に取った。
キーケースにつけてみると、意外なほどしっくりきた。

(……明日、ちゃんと仕事しよう)

そう思えたのは、橘の言葉が、自分を責めるためじゃなく、気づいてほしいという意思の現れに思えたからだった。