出勤すると、社内の空気がどこかいつもと違っていた。ざわざわと小さな波紋が広がるように、社員たちが何かを噂している。
その視線の先を追って、紗良がそっと目を向けると――
エントランスから、岡島が俯いたまま歩いてくるところだった。
目が合った。
岡島の足がぴたりと止まる。そして数秒の間をおいて、紗良の前に進み出た。
「……紗良さん、少しよろしいでしょうか」
その声はかすれていたが、はっきりとした意志が宿っていた。
紗良は静かに頷き、何も言わずに踵を返す。そして岡島を伴って、執務室へと向かった。
廊下を歩くわずか数十秒が、妙に長く感じられた。
岡島の靴音だけが、やけに響く。
執務室のドアを閉めると、紗良はゆっくりとデスクの椅子に腰を下ろす。
岡島はその前に立ったまま、顔を上げることなく、硬く口を結んでいた。
一瞬の沈黙。
その沈黙を破るように、岡島が深々と頭を下げる。
「……紗良さん。この度は、本当に申し訳ありませんでした」
震えるような声だった。
「私のせいで……あなたに怪我をさせてしまったこと。恐怖を与えてしまったこと……本当に、取り返しのつかないことをしました」
岡島の背中が、小さく震えていた。
「それなのに……あなたは、自分を助けるために、懲戒処分を決める会議に……意見書まで、出してくださって……」
岡島の声が詰まり、最後の言葉はかすれた。
紗良は静かに、岡島を見つめていた。
その瞳は、怒りでも憐れみでもなく、ただまっすぐな、人としての視線だった。
その視線の先を追って、紗良がそっと目を向けると――
エントランスから、岡島が俯いたまま歩いてくるところだった。
目が合った。
岡島の足がぴたりと止まる。そして数秒の間をおいて、紗良の前に進み出た。
「……紗良さん、少しよろしいでしょうか」
その声はかすれていたが、はっきりとした意志が宿っていた。
紗良は静かに頷き、何も言わずに踵を返す。そして岡島を伴って、執務室へと向かった。
廊下を歩くわずか数十秒が、妙に長く感じられた。
岡島の靴音だけが、やけに響く。
執務室のドアを閉めると、紗良はゆっくりとデスクの椅子に腰を下ろす。
岡島はその前に立ったまま、顔を上げることなく、硬く口を結んでいた。
一瞬の沈黙。
その沈黙を破るように、岡島が深々と頭を下げる。
「……紗良さん。この度は、本当に申し訳ありませんでした」
震えるような声だった。
「私のせいで……あなたに怪我をさせてしまったこと。恐怖を与えてしまったこと……本当に、取り返しのつかないことをしました」
岡島の背中が、小さく震えていた。
「それなのに……あなたは、自分を助けるために、懲戒処分を決める会議に……意見書まで、出してくださって……」
岡島の声が詰まり、最後の言葉はかすれた。
紗良は静かに、岡島を見つめていた。
その瞳は、怒りでも憐れみでもなく、ただまっすぐな、人としての視線だった。



