お断りしたはずなのに、過保護なSPに溺愛されています

帰り道、橘はずっと無言だった。
けれど、その沈黙には焦りや気まずさではなく、ずっと心の奥に押し込んでいた感情が、どうしようもなくあふれそうになっていた。

紗良の家に着くと、玄関でふたり並んで靴を脱いだ。部屋に入ると、橘は戸惑い気味の紗良の手を取って、リビングのソファまでぐいと引き寄せる。

「ちょ、ちょっと、橘さ……」

「名前で呼んで。……今はもう、ただの警護官じゃないんだから」

紗良は一瞬、目を見開いた。

「え……こ、こうた……さん?」

「“さん”いらない。……もう一回」

橘の低く落ち着いた声に、紗良は思わず身をすくめる。

「……こ、こうた……」

その名を呼ばれた瞬間、航太の中で何かが音を立てて崩れた。
長いあいだ、距離を保っていたはずの想いが一気にあふれ出す。

「……可愛すぎるだろ、お前」

ぼそりと呟いた次の瞬間、航太は紗良の細い肩を抱え、壁際へと追い詰める。
不意に近づく距離。紗良の頬に手を添えると、航太の視線が唇に落ちた。

「……ちょ、ま、ま、まって……! これってもしかして、今から、キ、キスってやつ……ですか……?」

思わず出た妙な敬語に、航太は一瞬フッと吹き出す。

「紗良、お前……可愛すぎる。なんでそんな焦ってんだよ」

「だって……経験ないし……わ、わかんないし……むしろ練習とか必要……?」

顔を真っ赤にして口走る紗良を見て、航太はため息まじりに笑った。

「もうダメ、ほんと可愛すぎて反則」

そのまま紗良を抱きしめ、強く、でも優しく彼女を腕の中に包み込む。
彼女の温もりが、じんわりと心に染みてくる。

「……今日は、キスは我慢する。でもこうやって、足りなかった分、今、補給中」

「……ばか」

紗良は顔を真っ赤にしながら、でも逃げずにその胸に顔を埋めた。
心の距離が、確かにひとつ、縮まっていくのを感じていた。