インターホンが鳴る。
すぐに玄関のモニターを見ると、そこには橘の変わらぬ無表情な顔。
「開けます」と短く言い、オートロックを解除する。
少しして、静かなノックが響いた。ドアを開けると、黒のジャケット姿の橘が立っていた。
「夜分に失礼します」
紗良は軽く会釈し、黙って彼を中に招き入れる。
リビングに通すと、橘は部屋の様子を一瞥しながらも、視線を紗良に戻した。
「……お加減、いかがですか?」
その問いに、紗良は少しだけ目を見開く。
言葉は簡素だったが、彼の目が、一瞬だけ自分の顔に留まり、そしてそっと逸れたことに気づいた。
(泣いてたの、気づいてるんだ)
「別に、悪くないです。もう落ち着いてますから」
「そうですか」
橘はジャケットの内ポケットから小さなケースを取り出した。
「これを、渡したくて伺いました」
そう言って差し出されたのは、シンプルなキーホルダー型のGPSだった。
「身につけていてください。何かあったとき、すぐに居場所がわかるように」
「これは私の判断です。上には報告済みですので、ご安心を」
紗良はそれを手に取って眺める。
無骨で、どこか彼らしい、無駄のない形。
「……ありがとうございます」
素直に礼を言いながら、紗良はふと視線を落とした。
橘が静かに言った。
「本来なら、今日の午後の時点で、私に相談していただけたはずの件でした」
その言葉に、紗良の指が一瞬ぴくりと動く。
「……」
「信頼されていれば、きっと、そうなっていた」
それ以上、橘は何も言わなかった。
責めるわけでも、問い詰めるでもなく、ただ事実のように口にしていた。
紗良は口を結び、視線を落としたままGPSをぎゅっと握った。
「……怖くなかったわけじゃない。でも、言っても無駄かもしれないって……そう、思ってしまっただけです」
「……そうですか」
また静寂が降りる。
だが、不思議と重くはなかった。
その沈黙の中に、紗良は少しだけ、彼の真っ直ぐな姿勢を感じ取っていた。
「……GPS、ちゃんとつけます。ありがとうございます」
目を合わせずにそう告げると、橘は小さく頷いた。
「何かあれば、すぐに連絡を」
そして彼はまた、一礼してドアの方へと歩き出す。
去っていく背中を見つめながら、紗良は自分でも驚くほど、ほんの少し、心が軽くなっているのを感じた。
すぐに玄関のモニターを見ると、そこには橘の変わらぬ無表情な顔。
「開けます」と短く言い、オートロックを解除する。
少しして、静かなノックが響いた。ドアを開けると、黒のジャケット姿の橘が立っていた。
「夜分に失礼します」
紗良は軽く会釈し、黙って彼を中に招き入れる。
リビングに通すと、橘は部屋の様子を一瞥しながらも、視線を紗良に戻した。
「……お加減、いかがですか?」
その問いに、紗良は少しだけ目を見開く。
言葉は簡素だったが、彼の目が、一瞬だけ自分の顔に留まり、そしてそっと逸れたことに気づいた。
(泣いてたの、気づいてるんだ)
「別に、悪くないです。もう落ち着いてますから」
「そうですか」
橘はジャケットの内ポケットから小さなケースを取り出した。
「これを、渡したくて伺いました」
そう言って差し出されたのは、シンプルなキーホルダー型のGPSだった。
「身につけていてください。何かあったとき、すぐに居場所がわかるように」
「これは私の判断です。上には報告済みですので、ご安心を」
紗良はそれを手に取って眺める。
無骨で、どこか彼らしい、無駄のない形。
「……ありがとうございます」
素直に礼を言いながら、紗良はふと視線を落とした。
橘が静かに言った。
「本来なら、今日の午後の時点で、私に相談していただけたはずの件でした」
その言葉に、紗良の指が一瞬ぴくりと動く。
「……」
「信頼されていれば、きっと、そうなっていた」
それ以上、橘は何も言わなかった。
責めるわけでも、問い詰めるでもなく、ただ事実のように口にしていた。
紗良は口を結び、視線を落としたままGPSをぎゅっと握った。
「……怖くなかったわけじゃない。でも、言っても無駄かもしれないって……そう、思ってしまっただけです」
「……そうですか」
また静寂が降りる。
だが、不思議と重くはなかった。
その沈黙の中に、紗良は少しだけ、彼の真っ直ぐな姿勢を感じ取っていた。
「……GPS、ちゃんとつけます。ありがとうございます」
目を合わせずにそう告げると、橘は小さく頷いた。
「何かあれば、すぐに連絡を」
そして彼はまた、一礼してドアの方へと歩き出す。
去っていく背中を見つめながら、紗良は自分でも驚くほど、ほんの少し、心が軽くなっているのを感じた。



