お断りしたはずなのに、過保護なSPに溺愛されています

しばらく沈黙が続いたあと、紗良がゆっくりと口を開いた。

「……本当はね、今も少し怖いの」

「……」

橘は黙って隣で耳を傾けていた。

「父の名前も、私の立場も、時々すごく重く感じる。守ってくれる人たちがいたから、ここまで来られたけど……本当は、ずっとどこかで、自分なんて……って思ってた」

声がかすかに揺れる。
だけど、泣きはしない。
紗良は、ちゃんと前を見ていた。

「橘さんがいてくれて、私は初めて“ひとりじゃない”って思えた。
誰かを信じてもいいんだって……そう思えたの。
……でも、同時に、いつかまた遠くに行ってしまうんじゃないかって、怖いの」

橘は、そっと彼女の方を見た。
風に髪が揺れ、街の灯りがその瞳をわずかに潤ませている。

「紗良」

優しい声が、彼女の名前を呼ぶ。

「俺はもう、“任務”じゃない。“責任”でもない。……紗良といるのは、俺自身の選択だ」

少し照れたように、でもまっすぐに橘は続けた。

「怖がっていい。悩んでいい。だけどその全部、俺に見せてほしい。……俺にだけは、隠さないでくれ」

その言葉に、紗良はじわりと笑顔を浮かべ、唇を震わせた。

「うん……ありがとう、橘さん」

言い終えると、彼女はそっと橘の肩に頭を預けた。
橘も、その肩に静かに手を添える。

都心の夜景が、ふたりをやわらかく包んでいた。