お断りしたはずなのに、過保護なSPに溺愛されています

湯上がりの髪をざっと乾かし、部屋着のまま食卓につく。
あたためた簡単な夕食を口に運び始めたところで、スマホが振動した。

画面に表示された「橘」の名前に、一瞬心臓が跳ねた。

通話ボタンを押すと、橘のいつも通りの淡々とした声が耳に届く。

「SNS経由のダイレクトメールの件について、お伺いしたいことがあります」

「……なんですか?」
平静を装って聞き返すと、

「渡したいものもあります。直接お話できればと思います」

その言葉に、紗良は思わず椅子から立ち上がった。
スマホを耳に当てたまま、洗面台の鏡の前に駆け寄る。

ぼんやりと赤みの残る頬と、泣き腫らして腫れぼったい目。
そしてすっぴん。

(こんなんじゃ、会えるわけない――)

一瞬、言葉が出ずに沈黙した。
電話の向こうで、橘が少しだけ声の調子を変える。

「……一ノ瀬さん?」

ハッと我に返った。

心のどこかで、「橘さんなら、別にすっぴんでもいいか」と思ってしまった自分がいた。
あんなに遠くて、何を考えているかもわからなくて、心が通じないはずの人。
だからこそ、気にしなくてもいい――そう自分に言い聞かせるように。

「……わかりました。お待ちしてます」

通話を切ったあと、鏡の中の自分に小さく笑ってみせた。
涙の跡は残っている。でもそれも、もうどうでもよかった。