お断りしたはずなのに、過保護なSPに溺愛されています

「——警護計画について、ご説明します」

橘は無表情のまま、父娘の微妙な空気をものともせず口を開いた。

「主任は私、橘が担当します。交代要員が3名、うち1名は女性のSPです。スケジュールによって順次交代しながら付き添いますが、初回は必ず私が引き継ぎます。紹介もその都度、行います」

「……大勢でつけ回されるのね、私」

「対象者の行動には最大限の配慮を行います。生活の自由を不必要に妨げる意図はありません」

言葉は丁寧だが、その声には一分の隙もない。まるで“逃がす気はない”と無言で突きつけているようだった。


執務室を出て廊下を歩く紗良の背後に、気配なく橘がついてくる。足音すら響かせない。

「……ついて来ないでくれる?」

「任務です」

無機質な返答が返る。

地上に出ると、紗良はスマホを取り出し、配車アプリを開こうとした。

「車でお送りします」

「は? 自分でタクシー呼ぶけど?」

「任務上、無許可での移動手段は認められていません」

「——私の日常に配慮するって言ったの、あれは嘘?」

鋭く睨む紗良に、橘はわずかにまぶたを下ろす。

「安全確保の範囲内で、最大限配慮します。……ですが、それ以外の妥協は致しません」

「……もう、好きにすれば」

口調は投げやりでも、橘の姿勢はまるで動じない。紗良は舌打ちしながら車へ向かった。

その車のドアを、橘が先に開けていたことに、気づいていたけれど——ありがとう、とは言わなかった。