取調室の空気は重かった。
四角いテーブルに肘をつくことも許されず、早川湊はただ真っ直ぐ前を見据えて座っていた。
目の前にいるのは、公安のベテラン捜査官。
背筋の伸びた男は、分厚いファイルを机の上に広げたまま、黙って数秒間、湊を見下ろしていた。
「――そろそろ、認めた方がいいんじゃないか?」
低く、よく通る声だった。
湊は口元を引き結ぶ。視線をずらすようにしてファイルに目を落とす。
そこには、自分が過去に投稿したSNSの記録や、勤務先から送信したメールのログが印字されていた。
「君が、岡島結菜という人物から得た情報を、断片的にであれ記者仲間に漏らしたのは、もう間違いない。
彼女の話す内容は具体性に欠けるが、周囲の証言、ネット通信記録、
社内ネットワークの不自然なアクセス履歴、すべてがそれを裏付けている」
捜査官が淡々と続ける。
「株主総会に関する内部情報――日程、代理出席の件、会場内配置……。
それらは、直接的な『機密』ではなかったかもしれない。
しかし、十分に悪意を持った第三者にとっては、攻撃の“下地”になり得る情報だった。
結果として、あなたの交際相手である岡島の上司が襲撃を受け、国家的な警備計画に穴が生じた。
あなたの軽率な発言が、いくつもの命を危険にさらしたんだ」
湊は汗をかいていた。
両手を膝の上に置いたまま、肩が微かに震える。
口を開きかけるも、声にならなかった。
「君が故意に情報を売ったかどうかは、我々がこれからも見極めていく。ただし――」
捜査官は身を乗り出す。
「君の情報を受けて、犯行に及んだ人物が、仮に今も逃亡中だった場合。その責任は、もはや“言葉の遊び”では済まされない」
沈黙が落ちた。
湊の喉が動いた。
目の前の男の眼差しが、何かを試すように自分を見ているのを感じる。
「……俺は……そんなつもりじゃなかった……」
ようやく絞り出した言葉は、すでに意味をなさなかった。
捜査官は静かに立ち上がる。
「もう一度言う。今のうちに話しておけ。黙っていても、こちらはすべて調べ上げる」
扉が開く音が、部屋に響いた。
四角いテーブルに肘をつくことも許されず、早川湊はただ真っ直ぐ前を見据えて座っていた。
目の前にいるのは、公安のベテラン捜査官。
背筋の伸びた男は、分厚いファイルを机の上に広げたまま、黙って数秒間、湊を見下ろしていた。
「――そろそろ、認めた方がいいんじゃないか?」
低く、よく通る声だった。
湊は口元を引き結ぶ。視線をずらすようにしてファイルに目を落とす。
そこには、自分が過去に投稿したSNSの記録や、勤務先から送信したメールのログが印字されていた。
「君が、岡島結菜という人物から得た情報を、断片的にであれ記者仲間に漏らしたのは、もう間違いない。
彼女の話す内容は具体性に欠けるが、周囲の証言、ネット通信記録、
社内ネットワークの不自然なアクセス履歴、すべてがそれを裏付けている」
捜査官が淡々と続ける。
「株主総会に関する内部情報――日程、代理出席の件、会場内配置……。
それらは、直接的な『機密』ではなかったかもしれない。
しかし、十分に悪意を持った第三者にとっては、攻撃の“下地”になり得る情報だった。
結果として、あなたの交際相手である岡島の上司が襲撃を受け、国家的な警備計画に穴が生じた。
あなたの軽率な発言が、いくつもの命を危険にさらしたんだ」
湊は汗をかいていた。
両手を膝の上に置いたまま、肩が微かに震える。
口を開きかけるも、声にならなかった。
「君が故意に情報を売ったかどうかは、我々がこれからも見極めていく。ただし――」
捜査官は身を乗り出す。
「君の情報を受けて、犯行に及んだ人物が、仮に今も逃亡中だった場合。その責任は、もはや“言葉の遊び”では済まされない」
沈黙が落ちた。
湊の喉が動いた。
目の前の男の眼差しが、何かを試すように自分を見ているのを感じる。
「……俺は……そんなつもりじゃなかった……」
ようやく絞り出した言葉は、すでに意味をなさなかった。
捜査官は静かに立ち上がる。
「もう一度言う。今のうちに話しておけ。黙っていても、こちらはすべて調べ上げる」
扉が開く音が、部屋に響いた。



