いつもよりも少しだけ静かな朝だった。
社内に張り詰めた空気が流れていることに、岡島も気づいていた。
だが、それが自分に向けられているものだとは思わなかった――少なくとも、そう思おうとしていた。
午前10時を少し過ぎた頃。内線が鳴った。
「岡島さん。情報セキュリティ室まで来ていただけますか?」
一瞬、心臓が強く跳ねた。
返事の声が、喉の奥でつまる。
だが、どうにか「はい」とだけ絞り出した。
ドアの向こうで待っていたのは、高坂だった。
「大丈夫。少し、確認したいことがあるだけです」
その言葉は穏やかだったが、目は笑っていなかった。
会議室に通されると、すでに公安の捜査員が1人、座っていた。
私服の、眼光鋭い男。
「岡島結菜さんですね。ご協力いただき、ありがとうございます」
机の上には、岡島の出勤記録、メールログ、そしてスマートフォンの通話記録が並んでいた。
岡島の顔から、すっと血の気が引いていく。
「突然ですが、お尋ねします。あなたは“早川湊”という人物と交際していますね?」
声が震える。
「……はい」
捜査員が視線を落とすことなく、次の言葉を投げかけた。
「一ノ瀬紗良さんが株主総会に代理出席したという情報を、彼に伝えた覚えはありますか?」
岡島の肩がびくりと動く。
「い、いえ……そんなつもりじゃ……軽い話のつもりで……」
「つまり、伝えたんですね?」
逃げ場がなかった。
岡島は崩れるように椅子に沈み込む。小さく、何度も「すみません」と呟いた。
その瞬間、高坂の中で、ひとつの断面がはっきりとした。
——彼女が意図して情報を漏らしたわけではない。だが、結果として一ノ瀬紗良を危険に晒したのは、紛れもなく岡島だった。
空気が重く沈む会議室の中、岡島はただ、俯いて動けなかった。
「紗良さんは……わたしに……すごくよくしてくれて……」
かすれた声が、虚空に吸い込まれていった。
社内に張り詰めた空気が流れていることに、岡島も気づいていた。
だが、それが自分に向けられているものだとは思わなかった――少なくとも、そう思おうとしていた。
午前10時を少し過ぎた頃。内線が鳴った。
「岡島さん。情報セキュリティ室まで来ていただけますか?」
一瞬、心臓が強く跳ねた。
返事の声が、喉の奥でつまる。
だが、どうにか「はい」とだけ絞り出した。
ドアの向こうで待っていたのは、高坂だった。
「大丈夫。少し、確認したいことがあるだけです」
その言葉は穏やかだったが、目は笑っていなかった。
会議室に通されると、すでに公安の捜査員が1人、座っていた。
私服の、眼光鋭い男。
「岡島結菜さんですね。ご協力いただき、ありがとうございます」
机の上には、岡島の出勤記録、メールログ、そしてスマートフォンの通話記録が並んでいた。
岡島の顔から、すっと血の気が引いていく。
「突然ですが、お尋ねします。あなたは“早川湊”という人物と交際していますね?」
声が震える。
「……はい」
捜査員が視線を落とすことなく、次の言葉を投げかけた。
「一ノ瀬紗良さんが株主総会に代理出席したという情報を、彼に伝えた覚えはありますか?」
岡島の肩がびくりと動く。
「い、いえ……そんなつもりじゃ……軽い話のつもりで……」
「つまり、伝えたんですね?」
逃げ場がなかった。
岡島は崩れるように椅子に沈み込む。小さく、何度も「すみません」と呟いた。
その瞬間、高坂の中で、ひとつの断面がはっきりとした。
——彼女が意図して情報を漏らしたわけではない。だが、結果として一ノ瀬紗良を危険に晒したのは、紛れもなく岡島だった。
空気が重く沈む会議室の中、岡島はただ、俯いて動けなかった。
「紗良さんは……わたしに……すごくよくしてくれて……」
かすれた声が、虚空に吸い込まれていった。



