お断りしたはずなのに、過保護なSPに溺愛されています

早川湊は、表向きは柔らかい物腰の好青年だが、
記者としての顔は別だった。

週刊誌という世界で、
真実よりも「面白さ」や「炎上」が価値を持つ記事を、何本も書いてきた。
中にはスクープとして表彰されたものもある。
だが、その裏では、
取材対象の身近な人間との会話の隙を狙い、
意図的に情報を引き出す手法を取ることも少なくなかった。

岡島と付き合ってしばらく経った頃から、
湊はある名前に強く興味を抱いていた。

——一ノ瀬紗良。財務大臣の娘で、今やセラフィコの経営幹部候補。

広報紙やネットニュースにもたびたび顔を出す、いわゆる「次世代の注目人物」。

湊にとって、そういう人物に関する「裏話」は、
金にも名声にもつながる“鉱脈”だった。

「最近、どう?」
「忙しい?」
「上司、相変わらずすごいの?」

そんな何気ない会話の中で、
岡島が口にした情報はわずかだった。

「代理で株主総会に出る」「毎日、車で通勤してる」「警護官がついてる」——それだけ。
それだけだったはずだった。

けれど湊は、そこにピンときた。

(財務大臣の娘が、あのグループ会社の株主総会に代理で出席する……? 警護までついてる?)

湊はすぐに、知人のジャーナリストネットワークに連絡を取った。
一部上場企業の総会に政府関係者の家族が出席する、しかも警護付き——何かある。

実名は出さなかった。
だが、湊は断片的な情報を、
「公の記者としての質問」という形式で会社に送った。

“財務大臣のご令嬢が、株主総会に関与しているとの情報がありますが事実ですか?”
“また、御社に対する外部からの警備体制が強化されたとの話がありますが?”

問い合わせのメールには、
あえて「複数の関係者から確認が取れた情報として」と一文を添えた。

真偽など、どうでもよかった。
情報が動き出せばいい。
社内に動揺が走れば、何かが漏れる。
そこからまた別の情報が取れる——
湊のやり方だった。

岡島には、何も言っていない。
ただ、少し前にこう言っただけだった。

「今度、そっちの業界でも何かでかいこと起きそうじゃない? 気をつけなよ」

岡島がその言葉をどう受け取ったのかは知らない。
だが、湊は笑っていた。
冷たく、底知れないほどに。