橘の腕の中で、紗良はじっと彼を見つめていた。
その視線に気づいた橘は、ゆっくりと息を吐くように言った。
「……紗良さん、そろそろ」
その声には、自分を律しようとするいつもの静かな調子があった。橘はそっと体を引こうとする。
けれど紗良は、にやりと笑った。
「……いや」
わがままを告げる声は小さかったが、その両腕にははっきりと力がこもっていた。彼を離す気は、さらさらない。
橘は少し困ったように眉を寄せたが、次の瞬間にはいつもの冷静な顔に戻り、呆れたように言った。
「大臣に言いつけますよ。あなたが警護の邪魔をすると」
「……何でお父さんが出てくるのよ」
紗良は不満そうに唇を尖らせ、渋々ながら腕をほどいた。
橘が「交代の時間です」ときっちりと告げて立ち上がると、紗良も反射的に、そのまま同じように立ち上がった。
右足首の捻挫のことも、急に立つと立ちくらみが出るからと医者に言われたことも、その瞬間には全部、どこかへ飛んでいた。
「――あっ」
立ち上がった瞬間、顔からさっと血の気が引いた。
重心がぐらりと傾き、足首がじわりと痛み出す。そのまま倒れてしまいそうになる。
けれど、支えたのは橘だった。
迷いのない、慣れた動き。瞬間的に手が伸び、紗良の身体を支えると、そのままソファへと戻し、やさしく座らせる。
「まったく……」
橘の口から、心の声のような呟きが漏れた。叱るというより、呆れと心配が入り混じったような響きだった。
「……ごめんなさい」
紗良は目を伏せ、小さな声で呟いた。
橘は何も言わず、しばらくのあいだ紗良の様子をじっと見ていた。彼女の無理をする癖を知っていて、それでも怒れない自分を、どこかで責めるような眼差しだった。
その視線が、逆に、紗良の胸を少しだけ締めつけた。
その視線に気づいた橘は、ゆっくりと息を吐くように言った。
「……紗良さん、そろそろ」
その声には、自分を律しようとするいつもの静かな調子があった。橘はそっと体を引こうとする。
けれど紗良は、にやりと笑った。
「……いや」
わがままを告げる声は小さかったが、その両腕にははっきりと力がこもっていた。彼を離す気は、さらさらない。
橘は少し困ったように眉を寄せたが、次の瞬間にはいつもの冷静な顔に戻り、呆れたように言った。
「大臣に言いつけますよ。あなたが警護の邪魔をすると」
「……何でお父さんが出てくるのよ」
紗良は不満そうに唇を尖らせ、渋々ながら腕をほどいた。
橘が「交代の時間です」ときっちりと告げて立ち上がると、紗良も反射的に、そのまま同じように立ち上がった。
右足首の捻挫のことも、急に立つと立ちくらみが出るからと医者に言われたことも、その瞬間には全部、どこかへ飛んでいた。
「――あっ」
立ち上がった瞬間、顔からさっと血の気が引いた。
重心がぐらりと傾き、足首がじわりと痛み出す。そのまま倒れてしまいそうになる。
けれど、支えたのは橘だった。
迷いのない、慣れた動き。瞬間的に手が伸び、紗良の身体を支えると、そのままソファへと戻し、やさしく座らせる。
「まったく……」
橘の口から、心の声のような呟きが漏れた。叱るというより、呆れと心配が入り混じったような響きだった。
「……ごめんなさい」
紗良は目を伏せ、小さな声で呟いた。
橘は何も言わず、しばらくのあいだ紗良の様子をじっと見ていた。彼女の無理をする癖を知っていて、それでも怒れない自分を、どこかで責めるような眼差しだった。
その視線が、逆に、紗良の胸を少しだけ締めつけた。



