お断りしたはずなのに、過保護なSPに溺愛されています

松浦と河田が、そっと気配を消すように退室していった。

重たいドアが静かに閉まる音がして、リビングに再び静寂が落ちる。

紗良は橘の隣に座っていた。沈黙は苦ではなかったが、胸の奥に積もった不安がまだ完全には消えていないのを、自分でもわかっていた。

ふと、自然に身体が動いた。

そっと橘の腕の中に潜り込むようにして、紗良は橘の胸元に顔を埋めた。柔らかく彼のスーツに触れる感触。鼓動がゆっくりと伝わってくる。

前なら、橘はきっと困ったようにその手を動かさずにいた。でも今日は違った。

ふわり、と。
まるで、壊れものを扱うように、優しく、橘の腕が紗良の背に回された。

「……」

その抱擁は、まるで「安心していい」と告げるようだった。言葉よりもあたたかく、確かなもの。

紗良はそのまま、顔を上げた。橘の胸の中で見上げると、彼の表情は、穏やかでありながら、どこか張り詰めたような影を湛えていた。

何かに耐えている。

紗良にはそう見えた。
強い責任か、それとも自分への想いか。言葉にはされない葛藤が、彼の目の奥に静かに灯っていた。

だから、紗良はそっと、座ったまま少しだけ背伸びをした。
不安も、感謝も、そして愛しさもすべて込めて。

そして、橘の頬に、軽くキスを落とした。

それは、ほんの一瞬の出来事だったけれど、空気がふっとやわらかく揺らいだ。

橘は何も言わなかった。ただ、瞼を閉じることでその想いを受け止めた。

互いの呼吸がそっと重なる。何も言葉にしなくても、心だけは、しっかりと寄り添っていた。