お断りしたはずなのに、過保護なSPに溺愛されています

高坂がタブレットを取り出して、手元の資料を開きながら、丁寧に言葉を選んだ。

「実は、紗良さんの業務、今は竹下部長が責任を持って引き継いでくださっています。ただ……」

そこで一瞬、言葉を区切ってから苦笑する。

「やはり英語の文書の仕分けと判断が難航していまして。部長も、これは紗良さんの方が数段早いと仰っていて」

紗良は目を丸くした。

「部長が……?」

「はい。ですので、会社と相談して、紗良さんの体調に差し支えない範囲で、リモートワークという形でご協力いただけないかという話が出ています」

松浦がちらりと橘を見る。橘は無言のまま頷いた。

「出社はまだ難しいと伺っているので、必要な会議はすべてオンラインで対応できるよう、私がシステム面を整えます。会議スケジュールや資料も、こちらでまとめて送付します」

と高坂。

続いて坂口が、緊張した面持ちのまま資料の一部を紗良に手渡した。

「今週分の契約関連書類です。現地法人との契約更新がいくつかあり、翻訳もですが、内容の確認と印鑑の要否などを整理しています。A案件は条件が昨年度と変わっておらず、すぐ判子に進めますが、B案件はちょっと齟齬が出ていて…こちらの比較資料をご覧ください」

手元の資料には、赤と青で色分けされた変更点がびっしりと並んでいた。

思わず紗良は手に力を入れる。頭の中が「仕事モード」に切り替わっていくのを自分でも感じた。

「ありがとう、坂口さん。整理、とても助かる。じゃあ、この部分は私の方で再チェックするね。高坂さん、会議の設定はいつからになりそうですか?」

「最短で明後日から、週1〜2回の頻度で準備しています。無理のないように調整しますので」

紗良は頷き、ソファのひじ掛けに書類を揃えて置きながら、口元に笑みを浮かべた。

「久しぶりに“私の居場所”に帰ってきた気がします」